タグ別アーカイブ: 柴田よしき

プロ野球選手の奥さんの軽〜いタッチの謎解き — 柴田よしき「あおぞら町 春子さんの冒険と推理」(原書房)

主人公は元看護士で、今はプロ野球選手の専業主婦の「春子さん」。青空市のマンション住まい(ベランダは広い様子)。夫の陽平くんは幼なじみで東京ホワイトシャークスというプロ野球チームの捕手。もっぱら二軍暮らしで、自由契約の瀬戸際あたり、というところが本書の設定。

舞台は、埼玉県の「あおぞら市(青空市)」というところ。三作目で「多宮市のほうが物件も豊富で・・」(これは大宮市のもじりだよね)。「一軍のホーム球場が都心のど真ん中なんで」といったフレーズがあるので、ヤクルト戸田球場のある「戸田市」あたりが原型かなと詮索するが、そこが謎解きと関係しているわけでもないので、ここらはどうでもよいことではある。

収録は

「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」

「陽平くんと、無表情なファンの冒険」

「有季さんと、消える魔球の冒険」

の三作。

「春子さんと、捨てられた白い花の冒険」は、土のついたままのパンジーをいれたダンボールを捨てようとする近所の男性を見つけるところから始まる。で、そのパンジーを土ごともらってしまうのだが、その後、ふたたび土つきの百合のダンボールを引き取ることになったのだが、その中に手紙が・・・、といった筋立て。ダンボールを引き取った理由は謎解きのあとに出てくるのだが、なんとも風情があるのだかないのだかわからない「虫愛る姫君」さながらの趣味。まあ、この趣味が高じて、人助けできたのだから良いとするか。

「陽平くんと、無表情なファンの冒険」はチームの二軍の試合に、毎回同じところに座るのだが、全く野球に興味のなさそうな女性の謎。二軍の試合のチケットは普通予約はなく、同じ席に座るには結構苦労がいる。さて、その隠された理由は、ということで、地方都市来からぬ、大がかりな事件が秘められたいる様子。

「有季さんと、消える魔球の冒険」は、偶然知り合った、元プロ野球の大物選手の隠し子にまつわる話。隠し子の娘さんは知的障害があるのだが、彼女が、春子になついてくる理由の影には、彼女の母親が、その大物選手に隠し通した優しい秘密が・・、といったお話。

収録数は少ないが、謎解きもどろっとしたところのない、いずれもウエハースのような、さくさくとした後味の良い話ばかり。プロ野球選手の妻が主人公、ということでなにやらスキャンダルめいたものが、と変な期待もあったのだが、どちらかというと、地方都市の日常に潜む「謎解き」といった味わいの短編集でありました。

スナック菓子のようなサクサク・ミステリー — 柴田よしき「石狩くんと(株)魔泉洞ー謎の転倒犬」(東京創元社)

ミステリーには世間と同じように流行り廃りがあるもので、本格モノが流行った頃もあれば、松本清張や森村誠一の”社会派ミステリー”が全盛だった頃などなど、その時の時勢に応じて移り変わっていくもの。とはいうものの、この魔泉洞シリーズのように、かるすぎるタッチのミステリーが全盛を誇ったという時期は、あまり記憶になく、どちらかといえば、スナック菓子のような間食的な扱いであるといっていい。

収録は

時をかける熟女

まぼろしのパンフレンド

謎の転倒犬

狙われた学割

七セットふたたび

の五編で、見ておわかりにように、題名は、著名なミステリーのもじりであるのだが、話の筋立ては、底本とは関係ない。

ざっくりとレビューすると

「時をかける熟女」は、本書の主人公である「石狩くん」と、もう一人の主人公、占い師の「摩耶優麗」がでくわす導入篇。彼がビルのカーペット敷きのアルバイトをしているところで、優麗にリクルートスーツ+ノーパソ+デジカメの衝動買いで財布が空っ穴になっているところを見抜け変えるところから始まる。その後、バイト代を掏られて、と急展開し、とりあえず摩耶優麗の「占いの館」魔泉洞に就職するまで

「まぼろしのパンフレンド」は、魔泉洞に就職して優麗の付き人を始めた石狩くんが、優麗とともに、占いのお客の恋人の失踪事件の解決に乗り出す話。「パン」に込められた失踪のヒントは果たして、といった筋。

「謎の転倒犬」は彼女イナイ歴の長い石狩くんが、良家のお嬢様に出会うのだが、彼女の飼い犬はどういうわけか散歩の途中で突然寝転んでしまうようになったのだが、このわけと、日本と外国との二国間交渉の行方がからんでくるという、ちょっとした政治的陰謀もの。

「狙われた学割」、前の「謎の転倒犬」でめでたくお知り合いになった良家のお嬢さん、野瀬さん達との合コンで、彼女のお友達の「見知らぬ男が改札口で、期限切れ間近の定期券を掠め取っていった」という妙な盗難事件を、合コン会場に入りこんだ優麗が推理するというもの。

「七セットふたたび」は、魔泉洞経歴も長くなってきた石狩くんは、優麗のタレント本(当然ゴーストライターが書いているのだが、まてよ、”当然”というのは変か)に校正を担当するまでになっってるのだが、職場で校正中に、何者かに襲われ、原稿を奪われてしまう、という事件の解決。

といったところで、見るからに深刻さもなければ、社会的な悪の糾弾もなく、さりとて恋愛ネタや因縁モノでみないという、サクサクカリカリと読んでいける軽~いタッチのミステリーで、謎ときのネタも、緻密さではなく、炭酸飲料のスカッとした味わいのようなネタである。

まあ、難しい悲痛な顔で読むのもミステリー、寝る前に寝酒代わりにクイッと読むのもミステリー。ミステリーに貴賎はないというもので、シチュエーションに応じて愉しめばよいんでありましょうね。ミステリーで深刻ぶりたくない人にオススメであります。

若き女性の鉄道”旅”ミステリー — 柴田よしき「夢より短い旅の果て」(角川文庫)

鉄道ミステリーといえば、時刻表片手にあれこれ乗り換えの可能性であるとか、列車のすれ違いの時間差であるとか、やけに細かなアリバイとそれを崩す刑事たちの捜査が中心となって、残念ながら時刻表のような細かな字にはできるだけ接したくない当方のような類いにとって妙に苦手な分野である。

その点、この「鉄道ミステリー」は、謎解き役が、むさ苦しい中年刑事でなく、うら若い女子大生で、どちらかといえば「鉄道旅」ミステリーであるのが好印象。

とは言っても、構成は

夢より短い旅に出る【横浜高速鉄道こどもの国線】

夜を走る【急行能登】

非行少女の時をゆく【北陸鉄道浅野川線】

絶景へと走りこむ【氷見線】

いつか終わる旅【JR日光線】

長い、長い、長い想い【飯田線】

新しい路【沖縄都市モノレールゆいレール】

旅の果て、空のかなた【JR常磐線】

となっていて、時刻表の隙間をついた殺人事件こそないものの、それぞれの鉄道の魅力もしっかり書いてあって、そこは女性にはまだまだ珍しい「鉄道オタク」である筆者面目躍如というところ。鉄道ファンにも十分楽しめるのでは、と鉄道にはほとんど興味のない当方が勝手に憶測してみる。

筋立ては(少しのネタバレをご容赦いただいて)東京聖華女子大旅行同好会会員で、西神奈川大学鉄道旅同好会の正式会員になりたがっている主人 四十九院香澄(「つるしいんかすみ」と読むらしいが、結局最後まで当方は覚えきらんかった)が、叔父の失踪の原因を探っていくという全話を通じた太い謎に、それぞれの小話の、「夢より短い旅に出る」の三駅しかない鉄道から改札を出ようとしない男の謎であるとか、「いつか終わる旅」の電車内で偶然同行することになった、どこか世間ずれしているワンピースにウエスタンブーツ、山姥メイクの少女が一人で日光まで旅している謎とかが絡まっていくという形式。

総じて「鉄道ミステリー」とりわけ「鉄道旅」のミステリーは、「旅」という非日常なものが入り込んでくるせいか、現実のドロドロしたものからちょっと離れたふわっとした風情があるもので、がっつりとした社会派が好きな人はどうか知らないが、万人向けに、後味軽く読めるものが多くて、「無聊をうっちゃる」というミステリーの目的に非常に適った存在で、本書もまさにそのもの。

香澄の叔父の失踪の謎は何なのか、は本書に直にあたってもらうとして、そうした謎解きを楽しむとともに、「鉄道旅」のワクワク感を味わせてくれる一冊であります。

タイムトラベラーネタを使った時代ミステリー — 柴田よしき「小袖日記」(文春文庫)

以前のエントリーで森谷明子さんの「源氏物語」のシリーズを取り上げたのだが、それとはまた違った風味の「源氏もの」のミステリーがこの「小袖日記」。
設定は、というと、森谷さんの「白の祝宴」「望月の後」といった作品が、紫式部ないしは、その侍女の阿手木が主人公であるのだが、この「小袖日記」は、雷によって、紫式部の侍女「小袖」と意識が入れ替わった、現代の不倫相手に捨てられたOLというSF仕立ての設定である。
で、そういう仕立てであるから、源氏物語のSF的解釈かというとそうではなく、源氏物語の各帖の裏にある隠された事件の解決ないしは、各帖の基となった事件を解決する、という形。
収録は
第一章 夕顔
第二章 末摘花
第三章 葵
第四章 明石
第五章 若紫
となっていて、源氏物語のメジャーな帖ばかりである。
で幾つか、さわりなりをレビューすると、
第一章の「夕顔」は、原作では、六条の御息所の生霊にとり殺される夕顔なのだが、「小袖日記」では、彼女はいつも袖の中に菓子を忍ばせていて、ある時、それを口にすると血を吐いて死ぬのだが、彼女がいつも菓子を持っていた理由と彼女を殺害したのは誰か、
といった謎解きであるし、
第四章の「明石」は、舞台を明石で、原作では源氏の流罪中に寵愛を受け、源氏が都に帰った後、都へ呼ばれる「明石の君」の真相で、紫式部と小袖が明石で出会った「明石の君」と、都で再会するあ「明石の君」が別人なのだが、そのわけは
といった感じである。
まあ、森谷明子の「源氏シリーズ」とは違い、「源氏物語」を本歌どりした「異譚」といて読むのがよろしいのではないかな。