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鉄道話ってのは、なんでこんなにグッとくるのかな — 高田 郁「ふるさと銀河線 軌道春秋」(双葉文庫)

時代物の若手の名手、高田 郁の手になる現代物、しかも鉄道物という結構レアな短編集。

収録は

お弁当ふたつ

車窓家族

ムシヤシナイ

ふるさと銀河線

返信

雨を聴く午後

あなたへの伝言

晩夏光

幸福が遠すぎたら

の9話で、登場する鉄道は外房線、大阪~神戸の私鉄線、大阪環状線(T駅=天王寺駅?)、ふるさと銀河線、郊外~新宿の私鉄線、東海道新幹線、京福線(嵐山駅)。

「鉄道」そのものが出会いと別れを象徴するほかに、鉄道沿線の街というのがまた人の暮らしの粋甘いを凝縮したようなところがあるもので、そこは車でのドアtoドア、点から点への移動が主体となる郊外の町とは別の趣があるももの。それにふさわしく、9話とも、しんみりさせる人情話が多い。

ネタバレ承知でいくつかをレビューすると、冒頭の「お弁当ふたつ」はリストラ後も出勤するふりをして列車内で一日を送る夫と、それに気づいての妻の話であるし、「ムシヤシナイ」は大阪の駅構内の蕎麦屋ではたらく祖父と東京から逃れてくる孫とが絆を構築する話であるし、「雨を聴く午後」「あなたへの伝言」は同じ駅の周辺を舞台とするバブル後に客を自殺させた心の傷を持つ証券マンとアルコール中毒で家庭を破壊した経歴を持つ主婦の、それぞれ独立しつつも並行した人生の哀歌である。

{鉄道」ってのは、どういうわけかそれを題材するだけで、ほろっとさせるネタが仕込めるもので、そこはズルいなと思うのだが、ここは作者の手の内で遊ばしてもらうのもよいではないかな。

なお、いくつかの短編は、ある話の主人公が、別の話の脇役や通行人的に登場するという入れ子構造になっているので、そこらあたりを探し出す楽しみもあるので、サイドメニューとしてどうぞ。