神奈川に「美味いもの」あり ー 今 柊二「かながわ定食紀行」

定食ものでおなじみの今 柊二さんが「かながわ新聞」に連載した、主に横浜、鎌倉、横須賀と言った神奈川の定食に大阪版トルコライスについて記した食べ物紀行。
定食屋というのは会社、大学、学校があって人の動きが多く、しかも昼食を持ち歩かない、しかも出入り自由といったところで進化するもので、たとえば
、いくら人が多くても工場や軍隊といったところでは発達するものであろう。
そんな意味で、首都圏、関西圏が一番のの適地と言っていいのだが、首都圏でも東京圏ではなく神奈川というところでの「定食」をとりあげたのが目の付け所の面白さといったところか。
そして、神奈川というベッドタウンでもありビジネス街でもあり、といった街の性格が定食屋にも現れているようで、東京の定食屋に比べて高校生からビジネスマン、街のおっちゃん、おばちゃんまで客層が多様で、しかも、結構アットホームのような印象を受ける定食屋の数々が、これでもか、という具合に出てくるので、一軒、一軒、読んでいくのが妙に楽しい
今柊二氏は、とにかく大盛り、ご飯・味噌汁おかわり可能というのが大好きというのが印象で、その辺は
・・デ、デカい、おかずが!スパサラダなどおまけ付きだし。まずは野菜炒めを食べる。おお、イカ、アサリ、エビたっぷり!ほどよい塩下限とキャベツなど野菜のサクサク感でご飯が進むなあ。(上州屋「サクサク野菜炒め ススムご飯」)
 
焼き鳥は塩かタレか選べるが、やはりおかず力が強いタレにしよう。注文を取りに来たお姉さんにそう頼むと、「大盛りにしますか?値段は同じですから」とうれしいことを言ってくれたので力強く頷いた
(とり忠「焼き鳥とご飯のハーモニー」)
 
「おまちどうさま」のお姉さんの言葉とともに、イカマグロ丼登場。マグロがどっさり、イカもどっさり、さらにはイクラも載っているという親切設計
(櫻や「イカとマグロの嵐のうまさ」)
といったところに如実に現れていて、
テレビを見つつぼんやり待っていると焼き肉別盛り登場。・・・こ、これは!ご飯が山のようにそびえ立っている!・・・こういう大盛りは重力の関係上、下に行くほどご飯の密度が高くなり苦しくなるのだ。ゆえに丼の上半分を食べたからといっって油断してはいけないのだ
(麻釉「伊勢原にて”大山もり”に登頂成功」)
 
まもなくランチ登場・・・・スゴいボリューム。大きなチキンカツ二個とシッポのないエビフライ三顧がお皿の上に並んでいる。付け合せはキャベツとスパ、そしてマヨネーズだ。まずはカツにソースをドドドとかけて、フォークを刺そうと・・硬い!ガギンガギンに揚がっている。ナイフで切って口に入れると、チキンの肉汁が口の中に・・・
(イタリーノ「「この味、この値段」満員も納得」)
というあたりには、まさに定食好き、いや「大盛り」の定食好きの面目躍如といったところ。

後半あたりで注目すべきは、カレー(ピラフ)+トンカツ+ナポリタン」というトルコライスの食べある記。ミツワグリル(横浜市)、かどや(武蔵小杉)、ゼニヤ食堂(大阪市)、イスタンブール(大阪市)、のらくろ(京都市)といったところが紹介されるのだが、発祥もネーミングの由来も諸説ある食べ物の常として、カツがピラフの上にあるのか下にあるのかまで、混乱しているのが興味深い。
巻末には、観音食堂(大船)での筆者、紀田順一郎、小野瀬雅生の三者、黒龍(横浜市)での著者、唐沢俊一、しりあがり寿の三者の特別座談会が掲載されていて、
今氏の
(値段の)下から二番目の法則。これは絶対正しい。値段が下から2つ目の定食が一番おいしい
紀田順一郎氏の
十数年前にアメリカに取材に行ったんだけど向こうには定食屋っていうのがないんだなぁ。みんな単品で一つ一つ注文する。・・・日本はいい意味でお任せ文化でしょ。幕の内弁当しかり、定食しかり。万人にいいようにできている。ほどよく食べられて大体満足。これって定食の原点じゃないかなぁ
唐沢俊一氏の
日常生活で食べていたものが、食べられなくなるとすごく美味しそうに感じる。食べたいものが食べられない状況というのも味付けになる
といったそれぞれの個性あふれる食べ物評、定食談義が最後の〆になっていて、いい仕上がりの食べ物本である。

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