男は黙って「立ち食い蕎麦」 ー 今 柊二「立ちそば大全」

「蕎麦」というと作り方から「手打ちで、こう捏ねて、水がどうこう」とか「石臼で挽いて」云々とか、「”もり”か”かけ”のみで、しかももりそばをたぐる時、つけ汁にはそばの端だけをちょっとだけつけてすするんだ」とかまあ、あれこれ七面倒臭いことが多くて、あまり得意ではないのだが、この本のように、高級名店、高級老舗は放っておいて、「立ちそば」に絞ったほうがいっそ清々しくて良い。
構成は
第1章 山手線1周立ちそば巡り
第2章 7大チェーン食べあるき
第3章 私鉄そばの旅
第4章 激戦区食べ比べ 新宿VS新橋
第5章 日本全国たちそば紀行
となっていて、まずは立ちそばの大潮流ともいえる「駅そば」から始まって、仕事場近くの立ちそば、仕事場からちょっと離れた自宅近くの立ちそば、と流れていき、そば激戦区の名店比べ、日本全国のたちそばへと展開していく。ただ、日本全国とはいっても、「そば」という麺の特殊性、おまけに立ちそばという特殊性ゆえか、札幌、中京圏、関東圏が中心になるのはいたしかたないところか。
そして、もりそば、かけそばといった蕎麦単体での注文はけして主流ではなく、たいていは天ぷら系などのトッピングや稲荷寿司、おにぎり、丼といったセット物の記述が多いのも、B級あるいは庶民系の面目躍如といったところであろう。
そういったところは蕎麦の美味さの表現でも現れていて、肩肘張った「「挽き方」「打ち方」談義はかけらもないのも特徴で、例えば、天ぷら系の蕎麦では
きつね一枚と天かすもしくは揚げ玉が入っている。麺はいつものようにシコシコ系でとてもおいしい。さらに天かすがおつゆに溶けてきて、トロトロとなり、ネギのシャリシャリ感と相俟って得も言えないハーモニーを奏でている。・・さらに合間に食べるお揚げの歯応えのある甘さが味の完成度をより一層高めている。
(P58 目白「車」きつね小たぬきそば)
ちくわ天というのもホント摩訶不思議な食べ物で、加工食品(練り物)をさらにフライにして揚げているわけだが、小麦粉がつき、青海苔がまぶされることによって、磯の香りが漂うとてもおいしい食べ物に変身するのだった
 
かくして、麺を食べ、ちくわ天をかじりつつ食べ進んでいくと、汁に微妙な変化がでてきた。おつゆにコクが出てきてどんどんおいしくなってきたのだ。
          (P73〜 駒込「そば駒」ちくわ天そば)
といった感じで、蕎麦のつゆに天ぷらの油がじゅくじゅく溶けていく旨さには、私も激しく同意するところ。おまけに、蕎麦通であれば、もっと気取った旨さ表現をするところを
まずは薬味をつけ汁に入れて、ズズズッと一口食べる。ツルツルシコシコ系の茹で立てのおいしさ。・・・つけ汁の濃さも丁度よい。どんどん食べて、つけ汁が減ってくるとフィニッシュとして、そば湯を投入。最初のそば湯はちょっと濃い目。半分くらい飲んでまたそば湯を注ぐ・・。と繰り返すとどんどん薄くなるが、そば湯の素朴な甘さで体が温まるのであった。(P91 御徒町「かめや」もりそば)
といった感じで、いなしてみせるのは見事な技。
さて、通勤客の多いところに立ちそばが栄える、というのはある種、鉄板の繁栄原理で、
そして具の厚揚げを。うわっ、こりゃ熱々だよと、かじって驚く。そのためゆっくりと食べると、店の外でどんどん東京行きの電車がやって来る。人々は電車が来るタイミングに合わせて店を出て行くけど、私は八王子方面だから大丈夫だとまだ熱い厚揚げをまだ熱い厚揚げをまた少しかじったのだった。
(P199 東京・立川「奥多摩そば」おでんそば)

といったところにビジネスの慌ただしさを、ちょっと和らげてくれる「立ちそば」の魅力を示していると思うのだが、如何であろうか。

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