古代日本の意外なバックヤードであった「関東」(関 裕二「古代謎解き紀行 関東・東京編」)

 
畿内(ヤマト)、山陰(出雲)、九州、瀬戸内海(吉備)と続いて、今巻はポンと関東まで距離を伸ばした『関 裕二「古代史謎解き紀行 Ⅴ 関東・東京編」(ポプラ社)』をレビュー。
 
構成は
第1章 古墳王国群馬の実力
第2章 関東の出雲の謎
第3章 東京古代史散歩
第4章 ヤマトタケルと東国
第5章 雄略天皇と東国
第6章 武の王国と関東の秘密
となっていて、先の4巻とは少し登場人物が変わって、古代王政を一新したといわれる「雄略天皇」そして、「実在が疑われる」どころか伝説そのものと思われている「ヤマトタケル」といったあたりがこの巻の謎解きの主人公。
 
「関東」「東京(江戸)」は私も以前住んでいたことがあるのだが、近世からこちら、特に江戸幕府ができてからは、「日本の中心」という自負があって威勢が良いのだが、どうもそれ以前、特に平安以前の頃の話になると、京都・奈良の「歴史の後ろ盾」を背負った「はんなりとした自慢」に気負わされて、「そりゃ、その頃はまだ山深かったが・・・」と語尾が怪しくなってしまう。
 
そんなところで、本書は、実は古代の「雄略天皇」のバックには、東国、しかも関東がいたんだ、と秘話めいた感じで「関東者」の肩を押してくれるので、関東が故郷の人は一読しておいたほうがいい。とりわけ、群馬は古墳王国として、さらには古代の一大勢力として持ち上げられているので、全国地道府県人気度ランキングで悔しい思いをしている群馬の方々は県の推薦図書ぐらいにしてもいいかもしれないですな。
 
本書の大筋をいうと、畿内の「吉備」勢力に圧迫された出雲の勢力が南九州と関東に流れ、そこで勢力を蓄える。畿内から「鉄」を分けてもらっていた群馬・埼玉あたりの勢力を母体にして、そこに出雲の敗残勢力が合流。
 
時を経て、どこでもありがちなように独立心がふつふつ。祟りやらなにやらで「祭祀王」として権威だけ復活していた「出雲」と関東の勢力が結びついて、実権を掌握していた「吉備」勢力の打倒に向かったのが「雄略天皇」・・・、という革命ドラマが隠されている・・・らしい。
 
ここで、雄略天皇がイケメンで恋愛ネタがあれば良いのだが、どうもこの天皇、妊婦の腹を裂いたり、家臣・領民に乱暴したり、と評判のわるい君主であったらしいので、そこはうまくドラマ仕立てにならないのが浮世の常ではある。
 
加えて、雄略天皇の後継、武烈天皇(この人もなんか乱暴者で評判悪かったらしいね)をはじめとして神武、天武、聖武といった諡号に「武」が入る帝に共通する「ヤマトタケル」「武」「武内宿禰」の王朝の系譜。「継体」天皇は「武」の系譜を継続させた天皇。そして継体以降の「武」の王朝を断ち切ったのが、墓に棺を下ろすための4隅の柱であるという意の「桓」」とヤマトタケルの王朝の「武」の字を持つ「桓武」天皇、といった筋立て。
 
最後のあたり、筆者の「藤原憎し、蘇我無念」「吉備と出雲・北九州の因縁の対決」と論調に収まってきているのが、他の巻とは一見、様子が異なるようにみえて同じ「古代史シリーズ」である所以か。こうなると邪馬台国を論争を続けている「畿内派」「出雲派」「北九州派」いずれの勢力も鄙びた「関東」のことだから、と無視しておいてはいけない話になってくる。
一方で、大海人皇子の後ろ盾でありながら、その後存在を希薄にされていく「尾張氏」などの「東海」の勢力の話はほとんどでてこないので、名古屋の方々には不満の残るところではあるかも、とそれぞれの御当地なりの意見を代弁して、この稿は了。
 

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