スピーチライターという怪しげなお仕事の正体

 
広瀬すず主演で、彼女のひたむきな演技で評判になった「学校のカイダン」で一躍取り上げられた「スピーチライター」について実態をレポートしてあるのが本書 蔭山洋介「スピーチライター 言葉で世界を変える仕事(角川ONEテーマ21)」である。
TVでは神木隆之介演じる雫井慧が主人公の影になって様々なアドバイスと演説手法を伝授し、落ちこぼれの主人公 春菜ツバメが「学校の大改革」をしていくのだが、こうした特殊な設定でなくても、スピーチ、もっとくだけていうと「挨拶原稿」書きというのは勤め人の必須であるし、「挨拶」「スピーチ」そのものが一定以上の役職になると職務として必須になる事項でもある。
 
構成は
 
はじめに 注目を浴びはじめた「影」の存在
第1章 世界を動かすスピーチライター
第2章 スピーチライターの役割
第3章 スピーチライターの仕事
第4章 スピーチライティングの実際
第5章 スピーチライターとして活動するために
おわりに スピーチライターは世界を変えられるのか
 
となっていて、もともと「寄り合い」と「空気」で物事を決定していた日本で、スピーチの重要性が認識されていなかったというところから始まり、、今までの雇用形態の崩壊やグローバル化などによる日本における「スピーチ」の地位の向上、それを受けての世界各地とりわけアメリカでのスピーチライターの活躍、スピーチライターの仕事の実際の方法論まで、ざっくりとではあるがスピーチライターのイロハが収められている。
 
私の近くにもとてもスピーチが旨い人がいて、その人のスピーチの様子を観察するに
・出席者の名前を織り込む。その日初対面であっても
・臭くても、ダジャレっぽくてもいいから笑いをいれる努力をする
・格言、故事、和歌、俳句、詩といったちょっと高尚なものを最後の方で引用して〆に使う
といったことが特徴となっていて、感心はするのだが、じゃあ自分が真似して実践ができるかというとなかなか難しい。
 
私のようなスピーチの特別な才能を持っていない普通のサラリーマンに、本書が有効なのは、第4章で新社長就任などの例を取り上げて、どう就任スピーチをつくり、喋りのレクチャーをするか、といったことが結構詳しく書いてあるところであろうか。全てが実際の仕事の喋りや原稿書きに使えないとしても、精神部分や手法の欠片くらいは応用が可能だろう。
 
ではスピーチライティングは具体的にどう進めるんだ、ということは、
 
スピーチ原稿の作成は、フルオーダースーツの製作過程とよく似ています。
 
スピーチラーターの書くスピーチ原稿の同じで、クライアントのためだけに製作するので、他の人が話しても違和感しかありません。
 
フルオーダースーツの製作では、漠然としたスーツのイメージを、顧客に確認を取りながら、少しづつ形にしていきます。
スピーチライティングも同様で、漠然としたスピーチのイメージを、クライアントに確認を取りながら少しづつ形にしていきます。
 
というところに象徴的で、部下やライターにお任せという形では心を打つようなスピーチはできないもののようだが、実務の実際は、部下なりが書いた原稿を読む、どうかすると棒読みする、といった実例が多いのは推して知るべし。
 
さらにスピーチ、とりわけディベートになりそうなスピーチで「想定される反論を無効化する論理」として
 
素人から見れば、少数派だろうと専門家は専門家です。どんなトンデモな専門家であっても、異なる意見を持っていれば「専門家によって意見が分かれている」ということになります。
そうだとすると、ほとんどすべての問題について専門家の意見がわかれていることになり、結局素人には何も判断できません。ですから、情報戦において各論に反論するのは、あまり意味がありません。
そのため、争点をどこにするかという「土俵の設定」こそが勝負の分かれ目になります。
(中略)
土俵を再設定できるかどうかが、反論における戦いのすべてと行っても過言ではありません。
 
 
スピーチで失敗する典型的なパターンは、「事実」がほとんど話されないで、「意見」ばかりというものです。・・・「意見」ばかりのスピーチでは、共感されることが難しく、むしろ反感が積み上がるか、よくわからないなと思われて、聴き手は眠ってしまいます。・・しかし「事実」で何を話すかを決めるためには、「意見」のパートで何を話すかを先に決めておく必要があります。「意見」が決まっていなければ、それをサポートする「事実」が決まらないからです。
 
伝えたいことがたくさんあるとどうしても説明が多くなります。しかし、説明を増やせばわかってくれるかというと、必ずしもそういうわけではありません。簡潔に伝えることが大切です。
(中略)
ビジョンを語ること自体は実はそれほど難しくありませんが、問題なのはそのビジョンが社員に魅力的に伝わるかどうかということと、達成可能だと信じてもらえるかどうかということです。
 
といったところはスピーチライティングだけでなく、反対意見への対処方法なども含め、仕事の進め方として汎用性があるように思う。
 
プロのスピーチライター、例えばフリーランスの政治系スピーライターになるには
①作家やジャーナリストとして活躍しながら、政治家とのコネクションを確立し、最終的にスピーチライターとしてヘッドハンティングされる
②選挙コンサルタントとして街頭演説などの選挙演説の指導を行う専門家に鳴る
③議会における代表質問などの代筆をする政策シンクタンクのコンサルタントになる
といった方法があるようだが、生計を立てるには「1日当たり3万円以上」「スピーチ原稿1本あたりで21万円以上」の依頼が最低線、といったことらしいのだが現実には、なかなか道は険しそうだ。
 
しかし、スピーチ・ライティングを「事業や新企画の原稿作成、資料作成」、スピーチ。トレーニングを「営業や新企画のプレゼン」と読みかえれば、「スピーチ・ライター」はけして遠い概念ではない。本書の実例を砕いて自分のビジネスや仕事への応用方策を考えるってのが、我々一般のサラリーマンの本書の「読み方」として良いのでは、と思う次第である。

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