高城剛「人口18万人の街がなぜ美食日本一になれたか」(祥伝社新書)

いろいろと評価はわかれるかもしれないが、日本の外から、日本への期待を込めて、きちんとした評価や意見、エールを送ってくれている方ではないかと思うのが、筆者ではなかろうか。
そんな筆者が、地域の活性化について、他国の成功例ではあるが、スペインのサン・セバスチャンを題材に説いたのが本書といっていい。
構成は
第1部 なぜスペインに観光客が集まるのか?ー徹底した「地域分権」という戦略
 1 「世界一の美食の街」サン・セバスチャンとは


 2 スペインはなぜ観光で大成功を収めているのか?


 3 独自の文化を誇る謎の民族「バスク」とは


第2部 サン・セバスチャンはなぜ美食世界一の街になれたのか


 1 世界一の料理となった「ヌエバ・コッシーナ」とは


 2 サン・セバスチャンの食文化


 3 料理を「知的財産」にする
 4 サン・セバスチャンの成功から日本が学ぶべきこと
となっているのだが、高城さんの本の面白さは、どういうわけか目次を読んでも想像ができてこないところがあって、
この街では星付きなんか関係ない街の立ち飲みバルも最高の味を提供していて、美味しいご飯を食べようと思ったら、数百円から可能なのです。
これこそがこの街の魅力だと僕は思います。(P27)
とか
インバウンドとアウトバウンドは、どの国もほぼ比例しています。
ということは、一方的に海外から観光客を呼び込むのではなく、こちらから出向けば出向くほど、実は観光客が増える(P31)
など、いわゆる通常の美食の街づくり話ではでてこないようなことからスタートするのが面白みである。

このサン・セバスチャンというところ
それまで料理というのは、シェフや親方の長年の経験や技術がモノを言っていました。まさに技術は教えるのではなく目で見て盗め、という世界です。そして、あたらしい料理は親方を中心に、空いている時間を工夫して考えられるのが常でした。
しかし、ここサン・セバスチャンでは違います。
主だった著名レストラン、例えば「アルサック」や「マルティン・ベラサテギ」「アケラレ」などのレストランには「料理研究室」が併設されており、基本的には店舗営業にはタッチしない研究室専任の料理研究者が、まるで化学実験のようにあたらしいメニューを開発しています
そう、ここは技術開発の場所であり、新商品開発の秘密のラボなのです(P96)
といった尖った、美味の街であるのだが、パリやウィーンのように、ずっと以前から「美味」で有名であった街ではない。それが急激に「美味」の街となったのは
いままで料理業界は、いや、いまでも料理業界の多くは、完全なる徒弟制度で何年も皿洗いや店の掃除をしながら「親方の技をそばで盗む」ことが、基本になっていました。これは、日本料理でもそうですが、フランス料理でも同じ仕組です。
しかし、この方式では、あたらしい料理を追求しようにも、まず伝統t系な味を覚えるのに何十年もかかり、いつまでたっても挑戦的な試みができません。また、この徒弟制度はあたらしい試みそのものに否定的でもあります。
そこで、アルサックを中心としたサン・セバスチャンの料理人たちは、自分の技やどこかで習得した技、あたらしい技をお互い教えあうことからはじめました。
これだと、同じ仲間のレベルがいっせいに上がるだけではなく、あたらしい料理界の変化に大勢で取り組むので、お互いの理解度が高まります。
(中略)
ここに、サン・セバスチャンのレストランのクオリティが急速に揚がった最大の秘密があります。
(中略)
街全体が美味しいと評判になれば、一軒だけでは集められないほどの人をその地へ呼び込むことができるでしょうし、一人では開発したり、作ることのできないような美味しい料理を出すことができるようになるかもしれません。
サン・セバスチャンのシェフたちは後者の可能性に賭けたのです。(P102)
といったところに理由(わけ)を見るあたり、眼のつけどころがやはり只者ではない。
ま、こうした、サン・セバスチャンの成功例にはぁー、とため息をつきつつ
スペインの観光戦略で面白いのは、国家として戦略立案するのではなく、その地をもっともよく知るその地域の自治体に徹底的に戦略を考えさせ、行動させることです。
こと観光に関しては完全な地域分権であり、これが成功の秘密だと言えると僕は考えています。
中央政府が、地方の細かいことまで知っているわけありませんから、その地域で「売り」となる観光戦略を考えようにも、議論がどうしても大雑把でステレオタイプなものになりがちです。
最近の旅行はより専門性が高くなってきていますので、どこにでもあるようなものを寄せ集めて「いろいろあります」という大雑把な戦略では、旅慣れた観光客にとって魅力的に映りません。(P47)
バルセロナの観光戦略でもっとも大切なことは「市民と観光客が一体になる」ことだと感じました。
(中略)
彼らは、普段、市民がその地で楽しんでいることを、そのまま広げるようなこと、それを徹底しているということを強調します。ここに「作られた」エンターテインメントや、わざとらしい「おもてなし」はありません。これが、嘘がつけないインターネット時代のもっとも特徴的な観光戦略で、観光都市バルセロナの成功の秘密なのだと思います。(P51)
といったところに、日本の片隅ではあっても観光地として発展していく夢を見させるあたり、やはり、地域振興、観光振興の辛口アドバイザーとしての氏の凄さを垣間見るところであろうか。
さて、地方創生の声が喧しい今、日本の数々の辺境の地も、こうした夢をみることができるのでありましょうか。

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