明治末期の風情やいかに ー 三木笙子「人魚は空に還る」(創元推理文庫)

時代ミステリーというやつは、その時代についての知識や興味がないと入り込むのに手こずるもので、このミステリーの時代も日露戦争の後、明治40年代を舞台にしていて、恥ずかしながら、当方にとってかなり霧のかかった時代ではある。

とはいっても、作品の出来は良好で、登場人物に、当時の三文雑誌の記者をしているが、実は時の司法大臣の義理の息子 里見高広 をホームズ役に、当代きっての天才画家 在村 礼 をワトソン役に据え、しかも性格の悪いのはワトソン役のほうという配役は巧い。

収録は

第一話 点灯人

第二話 真珠生成

第三話 人魚は空に還る

第四話 怪盗ロータス

第五話 何故、何故

となっていて、ざっくりとレビューすると

第一話は、化粧品の広告のコンテストで入賞した中学生の失踪というか誘拐事件で、贋札事件がどういうわけか絡んでくるもの。

第二話の「真珠生成」は、高広の義理の姉の結婚の嫁入り道具の物色中に起きた、宝石店での真珠の盗難事件。盗まれた真珠yの一部が、その店の金魚鉢からでてくるたりが捜査を撹乱するのだが、犯人は以外に近くという話。

第三話は、浅草の見世物小屋の「人魚」の蒸発事件。失踪とか言う意味での「蒸発」ではなく、観覧車の中からの。文字通りの「蒸発」の謎。

第四話は、米相場で大儲けした成金のところに洋画の盗難予告。差し出したのは、ルパンならぬ怪盗ロータス、ということで、今後、里見高広・有村礼のコンビのライバルとして育てていこうという作者の糸が見え見えではあるのだが、本筋の「日本にどうやって洋画が浸透したか」の方は少し調べると意外な歴史ネタが隠れているのかもしれない。

最後の第五話は、有村礼のおじの浮世絵画家が登場。事件自体は質屋からの単純な事件なのだが、官憲に追われる途中で簡単に盗んだ金を燃やしてしまった理由は、という話。

それぞれの謎自体は、趣向を「こてこて」に凝らしてあるという訳ではなくて結構オーソドックスで、読みどころは、やはり、明治時代後半という、まだ江戸期のおどろおどろしさや風情を残しながらも、近代に足を突っ込んでいる、という、レビューの最初でいったような「霧のかかった」感じを物語の舞台設定でうまく使っているところであろう。時代ミステリーは、その時代の感覚を感じれる、追体験できるというのが魅力の根っこのところであるので、その時代がなんとも怪しげであればあるほどよいというもの。

浅学ゆえ、この時代のエピソードやら紹介できる状態ではないのだが、なんとなく「明治末期」を味わえるシリーズであります。

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