平安時代の女房生活の追体験という不思議な読み心地 ー 森谷明子「白の祝宴ー逸文 紫式部日記」

「千年の黙 異本源氏物語」で大胆にも、紫式部の源氏物語の創作秘話として「かがやくひのみや」の帖がなぜ失われてしまったか?をとりあげ、「古典」も時代ミステリーになるんだと驚かせてくれた、森谷明子氏の「源氏物語ミステリー」の第二弾である。

構成は

序章 応仁二年(一四六八年)

第一章 「御産日記」

第二章 木曽駒

第三章 「中宮女房日記」

第四章 呪符

第五章 「紫日記」

終章 寛文二年(一〇一八年)

となっていて、応仁の頃、「紫式部日記」に祖先の記述があることを確かめることが人生の最大の目的となっている、落魄貴族の娘の後述から始まる。序章で、古い記述では「紫日記」となっていたものがなぜ「紫式部日記」となったのかは突然提示されるのだが、謎解きの本筋はそういうとことではなくて、では「むらさき」とは誰、といったことは本編を読まないとわからない仕掛けである。

物語は、「千年の黙 異本源氏物語」で、左大臣道長に手籠めにされて里下がりした式部が、中宮彰子に請われて再出仕するところからスタートする。中宮御所での仕事は、中宮彰子の御産の時のお仕えする女房たちの記録を集大成すること、なのだが、そこは人間関係の難しい後宮のこと、どろどろの自己顕示欲も渦巻いて、女はコワイな、という感じ。

こういう後宮ならではの人間関係と、当時の左大臣道長を中心とする政治的な闘争、一条帝の後継争いなどがないまぜになって進行するのだが、謎そのものは、中宮彰子の御産の時に、土御門邸に忍びこんだとされる盗賊はどこに消えたのか、というもの。

この謎解きが、冒頭の「むらさき」「紫」とは誰ということに結びつくのだが、これは本編を読まれてのお楽しみ。

こうした時代ミステリーは、謎を解くことが目的と楽しみみたいな「純・本格もの」と違って、今まで疎遠であった、歴史の一時代の空気を感じ、バーチャルで同時体験するのが、楽しみの大きな柱である。謎は謎として、日頃なじみのない平安貴族の宮中のお話をわくわく読むのも良いではないですかな。

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