紀州の下級藩士の万延というから幕末に近い頃の江戸の勤番日記である。
「江戸の侍」というと将軍家、大名家といった大きな武家の暮らしや旗本の暮らし、あるいは与力・同心といった捕物帳の常連の方々の暮らしは、書物でも小説でも、はたまた時代劇TVでもよく出てくるのだが、お殿様の参勤交代とともに勤番勤めをする、地方武士の暮らしぶりといったものはとんと出てこない。
そうした、地方からの、単身赴任のお父さんたちの江戸期の姿を垣間見れるのが本書。
構成は
第1章 江戸への旅立ち
江戸と勤番侍/食のクロスロード/勤番侍の江戸生活マニュアル/
江戸の酒/雲助の昼飯/道中の名物
第2章 江戸の日々
江戸最初の外食 そば/手土産の菓子折り/伴四郎と叔父様のお仕事/
冬支度と名物おてつ牡丹餅/勤番侍と出入り商人
第3章 男子厨房に入るー江戸の食材と料理
夏に食べるどじょう/御鷹の鳩/ずいきと長屋のお付き合い/
酒の肴にはまぐりを/ぼらの潮煮/風邪を理由に豚鍋/
おやつのさつま芋/かしわとすいとん/お土産にうなぎ
倹約家の豆腐/料理自慢と五目ずし/自炊の基本 飯炊き/
飯炊きの東西/料理道具をそろえる
第4章 叔父様と伴四郎
叔父様の食い意地/汁粉/人参の煮物/伴四郎のやりくり
第5章 江戸の楽しみ
三味線の稽古/長屋の酒盛り/すし/大名見物/
愛宕山から江戸を見る/江戸見物と名物/浅草のおばけと穴子の甘煮/
吉原のおいらん道中と両国/寄席・芝居・菊見物/
家庭料理/庭園都市江戸/江戸異人見物/横浜異人見物/
銭湯は庶民の娯楽場
第6章 江戸の季節
和菓子の儀式「嘉定」/七夕のそうめん/月見団子/食の節/
精進落としのさけ/酉の市と雁鍋
コラム
江戸の味・調味料
下り物と江戸の酒
陰暦と太陽暦
となっていて、この本の原本の日記の作者である紀州藩の酒井伴四郎の江戸への出立から始まって、江戸での日々の暮らしがレポートされている。
江戸の地方武士の暮らしは、どうしても藩邸中心の暮らしで、自炊が中心という建前であったようだが、そこは男所帯が多いヤモメ暮らし、浅草やらにふらふらと物見遊山にでかけたり、寺社に参詣して外食したり、と現在の単身赴任のお父さんの暮らしの原型ができあがっているようだ。
とはいっても本書ででてくるのは「どじょうぶた鍋」とか「汁粉」とか「そば」とか、さほど高価でないものが多いし、藩邸ではせっかく作っておいた料理を、食い意地のはったおじさんにつまみ食いされて憤慨したりとか、まあ下世話なエピソードが結構でてくるところが肩肘張らなくって読めるところ。
ぽっかりと暇のできた休日の午後あたりに、まったりと江戸風味に浸ってみるのもよいのでは。
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