少年の推理モノと成長物語として読むべきか — 西條奈加「無花果の実のなるころに」(創元推理文庫)

最近、ライトなミステリーを続けて読んでいるのだが、何よりもその魅力は憂き世の辛いことや陰惨なことからちょっと目をそらして、ほんわかとした謎解きに遊んで、一時、心を休ませることができること。

この「無花果の実のなるころに」も、中学生の「望(のぞむ)」とその祖母で若いころは芸者で女優もしていた「お蔦さん」によるそうした、ほんわかとしたミステリーである。
収録は
罪かぶりの夜
蝉の赤
無花果の実のなるころに
酸っぱい遺産
果てしのない嘘
シナガワ戦争
の6編で、物語の設定は、「望(のぞむ)」の父母は札幌へ赴任。中学生で念願の私立中学に合格した彼は、祖母と下町の履物店で同居。そして彼の特技は”料理”といった設定。
こうした設定の物語はミステリーであるかどうかに関係なく、若い青少年たちの、その時代特有の行動が、若い時代特有の青臭い恋愛とないまぜになって展開するのが魅力といってもよく、例えば「罪かぶりの夜」のような暴行犯の二重三重の犯人隠蔽の行動にもつながるし、「果てしのない嘘」のような、幼なじみとあこがれの女性を思いやった末に嘘を抱え込む行動にもそれが表れている。
さらには、こういった物語は、主人公の少年の成長物語として読むところも楽しくて、一作目の「罪かぶりの夜」では祖母との同居と家族と離れての暮らしに右往左往気味の「望」が、最終章の「シナガワ戦争」ではお蔦さんの留守中とはいえ、いいがかりをつけられた相手方の裏をかく戦法を、短時間に自ら立てて事件を解決するまでに成長していく姿もまたよいのである。
ま、こういったミステリー、あれこれ細部をごちゃごちゃ言うより、二人の推理に、近所に住む隣人か親戚の気分で、一緒になって付き合うかのように読んだほうがよろしいかと

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