少女マンガ的な味わいのミステリー — 森福 都「ご近所美術館」(創元推理文庫)

美術館ミステリーといえば、美術品の贋作話や、盗難といったことにまつわるものが多いのだが、一時は売れたが今は忘れられている漫画家の記念館的美術館が舞台とあって、そうした定番美術館見ミステリーとは程遠いのが本書。

 

登場人物は、その美術館(西園寺英子四コマまんが記念館)のオーナー兼元館長の、オタクマンガ家 川原あかねと、その姉の薫子さんに一目惚れした海老野くんがメイン。
周辺人物は薫子さんの元婚約者や海老野くんの恋敵の古美術商・南万堂のやりて経営者の南田氏といったところ。

 

そして、収録は
ペンシル
ホワイトボード
ペイパー
マーカー
ブックエンド
パレット
スケール

 

といった命名で、美術館らしい表題かどうかは個人の好みによるが、いくつかをネタバレ部分を含みながらレビューすると
「ホワイトボード」は探偵役の「海老野くん」がお見を寄せる薫子さんの妹のあかねの知り合いの母子家庭のまんが家の友人(ああ、面倒くさい)の殺人事件を解決するもの。未亡人を狙った結婚詐欺に端を発した単純なものかとおもうとそうでもない、意外とネクラでモテナイ男たちには面白く無い話

 

「ペイパー」はチロリアンハットが特徴の、通称「チロリさん」が美術館の常連になった理由をつきとめる話なのだが、意外と、えっ、そっちもっていくわけ、という感が漂う。

 

「マーカー」は女子高生の娘さんをもつ父親のよくある「娘に嫌われる」悩みの解決譚。父親は再婚をきっかけに娘に嫌われたと思っているが、実は娘は父親の健康を心配していて、といった心温温まる謎解きに終わる筈が、年頃の娘を持つ父親には一番ショックな結末が隠れている。

 

といった感じで、一筋ではいかないところが、このミステリーのクセのあるところではある。さらに、複線的気になるのが、「海老のん」こと海老野くんの薫子さんへの恋の行方。なんとなく劣勢気味に推移していくのだが、たぶん最後は・・・、てな感じで思っていたら、なんだよ、まるで少女マンガあるいは足立みつる的なオチではないか、と虚をつかれた。

 

なんとも最後まで二転三転してくれるミステリーではあるな。

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