対談集には異質の世界観をもつ人同士がその異なる世界をぶつけあうものと、同質の世界観をもつ人同士が同じ世界を確かめ練り上げていくいくものがあると思うのだが、本書は後者のパターン。
で、その世界観というのが、売れっ子で気鋭のデザイナーと「暗殺皇室」という独特の世界観をもったコミックの作者という、第一印象では、派手な世界観を想像してしまうのだが、どうかすると欲のすくない仕事人間の仕事論ですらあるように感じる。
構成は
第一章 漫画の時間
第二章 デザインの時間
第三章 ひらめきの時間
となっていて、それぞれの仕事場を訪問しあいながら、「仕事」について対談をするという形式。
で、売れっ子であるが、冷静さを失っていない二人のアイデア出しの方法も一種、冷めたイメージが多くて、それは
おもしろさから目を逸らさないことですかね。自分の漫画を見るとき、「本当におもしろいのか?」と薄目で見るんです。まつ毛がブラインド状になるぐらいまで、薄目になる
であったり
アイデアを探すとき、俯瞰はしないように気をつけていますね。経験を積んでだんだん全体がわかってくると、俯瞰できるようになるんですけど、あえてそこは目線を上げないようにする。むしろ一般の目線よりちょっと下げるぐらいの方が、物事はクリアに見えたりしますから。
といったところで、その先に
現状の問題に対する答えではなく、先にいくつも答えを想像してしまう。Aの1、Aの2、Aの3……その答えの中で、一番相性のいい質問に返ってくる。向きとしては逆。ちょっと先の未来を予測して、今の課題を見つける。まず答えをイメージして、それにもっとも合う質問を逆算しているから、その問題は必ず解けるんですよ。説明した相手には「何で答えを知っているんだ?」とビックリされますね。
といったところに斬新さを感じる。そして、その基礎となる私生活も
普段の生活では、毎日同じことを繰り返します。毎日同じ喫茶店に同じコーヒーを一日何回か飲みに行って、毎日同じ道に犬を散歩に連れていき、毎日同じ蕎麦屋さんに通って同じメニューを頼んでいます。
とか
淡々と同じことを繰り返すことで、たぶん脳がリラックスするんですよ。服も同じ白いシャツを二〇枚、同じ黒いパンツを二〇枚持っています。選ぶとき、考えなくていいから。普段の仕事が変化ばっかりなので、私生活では変化を嫌いますね。客観的に見て、相当つまらない人間だなと思います
といったところも、若き成功者の対談集を読むとよくでてくる妙に高揚したギラギラ感がなくてむしろ好ましい。
さてさて、今後この二人、
佐藤さんの言ったアーティスト型というか、やりたいことがしっかりある人って、自分にはわりともろいように思えて。そのやりたいことがなくなってしまったら、そこから何も生みだせなくなってしまう気がするんですよ。この業界で息長く頑張るには、やりたいことがない方が絶対やりやすいし、長持ちする。
という信念であるらしく、これからどういうプロダクトが生み出されるか、ワクワクしながら追いかけましょうかね。
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