紅梅亭シリーズの円熟味がますます — 愛川 晶「うまや怪談」(創元推理文庫)

二つ目落語家の寿笑亭福の助とその奥さんの亮子さんをワトソン役に、その元師匠の山桜亭馬春をホームズ役にした紅梅亭シリーズも三作目となって、かなりこなれて、円熟味がでようというもの。

収録は

ねずみととらとねこ

うまや怪談

宮戸川四丁目

の3編。ネタバレ承知のレビューをすると

「ねすみととらとねこ」は紅梅亭の競演会でも、因縁の兄弟子との対決話が主題。まあ、兄弟子の仕掛ける意地悪い罠をはねのけて福の助の芸が上達していくので「結果よければ・・・」といえるのではあるが、この兄弟子は意地悪で暗いだけの人物なので、やっつけられても今ひとつすっきりしないのが残念ではある。

なかほどの「うまや怪談」は福の助の奥さん、亮子さんの実の兄、翔太の結婚話。この結婚、亮子のお母さんと、翔太の相手方のお父さんが反対、という一昔前のゴールデンタイムの恋愛ドラマさながらの設定。それに、亮子さんの勤め先の学校のさえない臨時教員の「只野」先生の恋愛話が挿入されて、なんとも目出度いんだか、面倒くさいんだがよくわからない展開の中、福の助が謎解きと新しい噺をこしらえて、芸の腕を上げるという筋。

福の助が自力で謎をといたことが次の「宮戸川四丁目」の発端になる。

最後の「宮戸川」は、馬春師匠の女好きがあれこれと暴露されるとともに復帰話が進展を見せる話。色ごとは芸の肥やしとは言うもののほどほどにしないと、きついお仕置きを受けるものらしい。

落語ものは、この愛川 晶氏のシリーズぐらいしか見かけなくなっているのだが、あちらこちらに落語の楽屋ネタが挟まっていて、読んでいるうちに、落語のウンチクが豊富になるような錯覚に陥るのも、このシリーズの楽しみである。謎解きとあわせて、落語通になった気になりたい人はぜひ。

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