現代娘「寄席」の経営者デビュー — 愛川 晶「神楽坂謎ばなし」(文藝春秋)

「神田紅梅亭」シリーズに続く「寄席」ものが、この「神楽坂倶楽部」シリーズ。発端は、神楽坂倶楽部の席亭の娘に生まれつつも、幼いころに、席亭の父と母が離婚したため、生き別れになっていた教育系出版社に勤務する「武上希美子」が、父の実家「神楽坂倶楽部」の席亭代理となり、芸人や近隣の人々、あるいは実の父親などが巻き起こすトラブルに振り回されていきながら、謎解きをしていくというストーリー。

もともと、出版社から席亭代理になる経緯も、大御所の落語家の時事評論ものの出版をめぐるトラブルからということで、まあ落語家をはじめとする芸人とは切ってもきれない関係であったということか。

収録は

セキトリとセキテイ

名残の高座

の二編。

で、今回の「神楽坂」シリーズは、「紅梅亭」シリーズが落語が中心であったに対し、今回は手妻、大神楽といった「色物」がよくでてくる。

「セキトリとセキテイ」は、このシリーズのオープニング・ストーリー。冒頭の大御所落語家の出版をめぐるあれこれと生き別れの父親との再会、そして席亭代理への就任といったあたり。

「名残の高座」は、癌にかかって余命幾ばくもない老噺家の最後の高座の話。といっても、病気と年波で結構芸が荒れてしまっている老師匠にの引導を渡していく筋なので、本来とてつもなく暗くなるか、妙に人情噺っぽくなるのが常ではあるが、希美子が席亭代理になる原因となった噺家、寿々目家竹馬の計らいで粋に仕上がっている。希美子の化物よけのおまじないの所以などなど幼いころの記憶の種明かしが判明する。

謎と言っても小ぶりの寄席ネタが多いので、本格モノなどを期待して読みたい向きにはちょっと向かないが、寄席や高座の豆知識を得ながら楽しめる、ちょっとした箸休め的なミステリーというべきであるかな。

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