書店業界・出版業界の裏話もまた興味深い — 大崎 梢「背表紙は歌う」(創元推理文庫)

中小出版社の明林書房の営業の「ひつじ」くんこと井辻智紀くんの書店シリーズの第2弾。

収録は

「ビターな挑戦者」

「新刊ナイト」

「背表紙は歌う」

「君と僕の待機会」

「プロモーション・クイズ」

の5編。

さて、ネタバレすれすれのレビューをば。

「ビターな挑戦者」はひつじくんが、大手取次店の横柄な大越こと「デビル大越」に出会うところからスタート。彼は社内外問わず横柄で傲慢で有名なのだが、どういうわけか書店の評判は良いという謎とき。最近の出版不況というか、本離れのご時世で経営の厳しい書店の哀歌が垣間見えるお話

「新刊ナイト」は、新人作家のサイン会にまつわる話。人前に出たがらない作家さんがようやくOKしたサイン会とトークショーなのだが、サイン会の最後の書店で、その作家の高校の同級生という書店員にひつじくんが出会う。ところが、この作家さんの評判の最新作は、高校時代を舞台にした自叙伝っぽくて、しかも、その高校の同級生や教師は性格の最悪なやつらの話ばかり。その書店員はサイン会でぜひ会いたいと言っているのだが、間違うとサイン会・トークショーがドタキャンになる、さて・・、というお話。まあ、大団円ではあるのだが、ひつじくんのお手柄ではないよな

表題作の「背表紙は歌う」は新潟の地方書店(シマダ書店という名になっている)の経営危機をどう救うか、というもの。智紀のジオラマの師匠で、今回彼に相談をもちかける、フリーの書店営業の久保田さんは、この書店の経営者の元配偶者。経営の危機の原因は地方の素封家で文化人の有力者と書店経営者の喧嘩が素らしいのだが、どうやら、前妻の久保田さんのことも関係しているような、していないような、といったところで、今回は、遠隔捜査役として、智記の同業他社の書店営業の真柴氏がよい働きをしてくれる。地方出版と地方文化の関係は切っても切れないのだが、この間にもグローバリズムの盈虚ぷがでてるのかも、と思わせるエピソードが挟まる。

「君と僕の待機会」は東々賞という文学賞にまつわる話。この賞が出来レースだ、という噂が流れ、エントリーされている作者の事態騒ぎまで出そうな風情。これはマズイと、書店営業の面々が謎解きに乗り出す、というもの。

最後の「プロモーション・クイズ」は新刊につけられる、書店員のコメントにまつわる話。コメントにこめられた謎と書中にでてくる「なぞなぞ」との二重の謎解きがでてくるのだが、この話で、別のシリーズでおなじみの成風堂の名探偵が謎解きに参加する。

これは「授賞式の夕べに」の布石でもあるかな。

当方、電子書籍はであるとともに自炊派でもあるので、書店や出版社を含め「本」というものに関連する業界には思う所いろいろあるのだが、まあ、「本」一つの産業であり文化であることは間違いない。そして、産業であるから、様々な内輪話とかトリビアとかがあって、そうしたことも楽しみの一つになるのは間違いない。業界ネタ満載の明るい名ステリーとして楽しめるものでありますな。

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