デザイナーによるプロジェクトの仕上げ方 — 佐藤オオキ「ネンドノカンド 脱力デザイン論」

デザイナーというよりは様々なものの「プロデューサー」「プランナー」という側面の強い佐藤オオキ氏のエッセイ集というか、「デザイン」「アイデア出し」といったことを中心にしたネタ本という感じ。

様々な斬新なプロダクトを生み出し続けているデザイン事務所の主宰だけあって、”お”と思う言葉が満載で、

日常生活を過ごしていると、空気や水のように体を通り抜けていく様々な要素があります。その中でフィルターに「ひっかかる」わずかな差異や違和感がそのままデザインの素になっている気がします(P12)

フィルターになるべくいろんなものをひっかけるためには、「脱力」することが一番効果的です。「脱力」が必要なのは、やみくもに「当たり前のこと」を遮断してしまわないようにするためです。「当たり前のこと」からいいアイデアが生まれることがあるのです(P13)

打開策の一つとして「椅子の上に立って見る」というのがあります。ものすごく高市から俯瞰するわけではなく、デスクの上でにらめっこしていた対象物を「ほんの少しだけ」引いて見る感覚です(P21)

といった「力を抜く」「大所から見る」ということを”アイデア出し”の中心に据えた人をあまり知らない。

かといって、ふわふわ、ゆったりとした作業を勧めているのではなく

デザインはあまり熟成させないほうがいい、というのが持論です。大きな理由として、アイデアには「鮮度」があるからです。(P44)

鮮度重視のデザインは、長く手に持つと自分の体温が食材に写ってしまうため、少ない手数でイメージを結実させる瞬発力が肝になります。だから。社内のスタッフには「精度の高さ」はもちろんのこと、「スピード」を徹底的に求めます(P45)

「速度」を極限まで追求することで、「柔軟性」を保ちながら「質」を高めることができるからです。倍の速度でアイデアを形にできれば、クライアントに対して2倍の選択肢を提示でき、様々な可能性を広げることができます。納期を大幅に短縮することで、当初は難しいと考えられてきた技術的なオプションが復活することもありえます。時間にゆとりがあるので、途中で不可抗力による方向転換を余儀なくされたとしても、素早く軌道修正ができます(P67)

ということで、やはり最先端で仕事をしていくには「スピード」が第一ということは必須のようで、このあたりは他のビジネスリーダーの仕事の手法と変わるところはない。

ただ、やはりデザイナーという職業のせいか、プランニングの手法というか切り口が、コンサルタントとか実務家の視点とはちょっと違っていて、そのあたりは

この曖昧な感じはデザインをする上で重要なスタンスであったりするのです。逆に、物事を決めつけることの恐ろしさ、とでも呼ぶべきでしょうか。「もの」に明確な名前をつけた瞬間に、その「もの」は限定されてしまうのです。できるだけ柔らかい状態に保持することで、新たな「もの」に変化していく可能性や広がりが生まれるのです(P82)

デザイナーは何かを「作る」ことが主な仕事だと思われがちですが、どちらかというと何かを「見る」ことのほうが多いのが現実です。・・・アイデアを考える時も、その商品を取り巻く状況や市場の反応を観察している時間がほとんどです。

なぜなら、解決策は必ず目の前のテーブルの上に置かれているからです。それを見つけさえすればデザインはできたも同然です。

「見つけ方」はおおまかに2つほどあって、そのひとつが対象物を「見ない」ことです。・・・局所的な要素を意識しすぎることで、その商品の本質的な魅力を見失うことがよくあります。これを防ぐためには、対象物をできるだけ凝視しないようにして、その周辺ににじみ出ている要素や背後に隠れている情報にも意識を広げることが重要です。

二つ目の見つけ方は「第一印象を何度でも繰り返せる」よう、常に「リセットする」ことです(P200)

といったところにあらわれている。一般のコンサルタントとか広告代理店に象徴される「文系」や「理系」のプランニング手法が少々綻んで限界が見えているような気がしていて、その点、文系・理系の立ち位置から自由な「デザイン」系のプランニングは新しい視野を示してくれるようで、そこが今、注目されているところでもあるのだろう。

ただ、斬新なプロダクトを生み出すのは、デザインの仕事も通常のビジネスの仕事も共通のところはあるようで

「数を多く手がけるとクオリティーが下がる」という、量と質が反比例していた時代は終わり、今や量と質は2段構造となりつつあります。コンスタントに量を生み出す土台があって、そこから生まれたノウハウを養分にすることではじめて質の高いデザインが開花するのです(P206)

といったところは前述のスピード重視と同様であるのだが、

「予期せぬことをいかに予測できるか」が、常にデザイナーには求められます。過去のデータを分析してロジカルに予測するマーケティング手法とは少し違い、過去の事柄を感覚的にとらえながら、今の状況や時代の空気感とうまいことブレンドして、半歩くらい先の未来をイメージするのです。そして、それを具現化するのがデザイナーです(P152)

デザイナーは物事を人と違う視点で観察したり、異なる切り口を探すのが仕事です。つまり「人と同じ」ではマズイわけです。能力のバランスの良さよりも。長所を伸ばしていって「その人ならでは」の武器を身に着けちゃうほうが差別化が容易、ということになるのです(P157)

といった風に通常のビジネスマンの発想法や仕事のスタイルとは違っていることも事実。異世界を覗きつつ、自らの地道なビジネスに活かしていく。そういった付き合い方がよろしいのかもしれませんね

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