国際問題や時事問題の解説本というのは、少し古くなった旅行記と共通のものがあって、時間の経過とともに事態が動いてしまっていたり、本が書かれた時点では、さてどうなりますかとなっていたことが、あっと驚く結末になっていたりする。
なので、あまり未来予測的であったり、志向性の強いものは、後になると、読むに絶えないものになることが多いのだが、池上彰氏の時事解説は、その時点の、その事態に至った歴史的な経緯もしっかり書き込んであることが多いので、原稿時点からの推移をこちらで補足していけば、おおむね冷静な時事評論として読むことができるのがよいところであろう。
本書は2015年時点で再整理されたもので、構成は
RULE1 組織拡大術ー「イスラム国」が急成長したわけ
RULE2 トラブル解決法ー間違いの誤り方が勝負だ
RULE3 ホンネを見抜くー公開情報から推理する
RULE4 歴史の勉強法ー社会人は教科書「世界史A」を読もう
RULE5 究極のリーダー術!?ー独裁・中国はどこに行く
RULE6 お金、マネー、資本を知ろう
RULE7 交渉術、プレゼンテーションを磨け
RULE8 ビジネスのカギは科学にあり
RULE9 インタビュー術!ー「いい質問」をする秘訣
となっていて、イスラム国(現時点では”IS”か)、STAPLES細胞、TPP、スコットランドの独立といった、執筆時点からかなり事態の変化したものも多いのだが、
フランスの風刺画はキリスト教も対象に取り上げます。しかし、イスラム教の預言者ムハンマドを風刺すると、イスラム教徒の心を傷つけてしまう事態になるのです。
イスラム教徒にとって、ムハンマドとは、どんな存在なのか。彼は預言者です。予言者ではありませんよ。「神の言葉を預かった」人です。神は、ムハンマドを選び、人々に神の言葉を伝えるように命じられた、ということになっています。ということは、ムハンマドへの風刺は神の宣託を風刺すること。神への冒瀆と感じてしまうのです。
といったイスラム国での記述は、テロが個別のテロとなり、それがアメリカやヨーロッパの移民論争、ひいてはトランプ政権の誕生に至る発端を示すものであるし、
仮にスコットランドで独立賛成派が過半数を獲得していたら、ヨーロッパ全体が混乱に陥ったでしょう。 しかし一方で、長期的に見れば、地域への帰属意識を基盤とした、実にエネルギッシュで多様性のある世界に転換する、重大な分岐点になっていた可能性もあります。
というスコットランド独立の騒動に関する記述は、イギリスのEU離脱という当時は思ってもいない事態への”予兆”を敏感に感じたものといえなくもない。
さらに、本書を読むもう一つの愉しみは、
大きなニュースになる場所ですと、大手メディアが社員を派遣して取材しますから、フリーランスの出番はあまりありません。社員が取材に行かない場所を選んで行くことが多くなります。社員が行かない場所。それは、危険な場所か、地味なテーマにしかなりそうもない所です。 危険な場所だと、文字通り自分の命が危険ですし、地味な場所だと映像や情報が売れないという金銭的なリスクがあります。どっちに転んでも、いいことはありません。これがフリーランスの特徴です。
確かにフリーランスは、得られたものを売って費用を回収するしかありません。とはいえ、実態は、「金を稼ぐ」というには、対価はあまりにささやかです。 それなのに、なぜ危険な場所に取材に入るのか。それは、「誰かが伝えなければならないから」という使命感に突き動かされているからです。
といったマスコミの裏事情的なものが、そこここに出てくるのと、筆者とC・ロイド氏の対談での
実は国レベルの歴史というのは、論理的な思考ではなく、感情の物語なのです。計算でなく、ただ単に頭に来ただけ、という理由で起こった出来事が非常に多い。イスラエルとパレスチナ、日本と中国、スコットランドもそうですが、感情が先走って対立が起こる。 でも二世代、三世代と時間を重ねていけば感情を克服できるかもしれない。ですから、最も重要なのは教育です。多様性を尊重する次世代を学校、家庭、あらゆる場面で育てていかなくてはなりません。
や
「むかしは良かった」とは、どこの国でも言われる言葉です。でもこれは、当時のことを知る人がいないからこそ言える言葉。実際には、国民がおしなべて貧しく、オシャレは禁じられ、人民服を着用していなければ批判されるという息苦しい時代でした。 そんな時代が、なぜ懐かしまれるのか。現実が厳しいと、人は、過去の例を引き合いに出して、現在を批判しがちです。
といったことや、筆者とドワンゴの川上量正会長との対談での
要は古い、新しいはあるにせよ、いつの時代でも同じような性格のものがあるんですね。(池上)
そうなんです。時代に応じて同じものが装いを変えているだけなんです。(川上)
といったように、達人たちとの対談で「きらり」と光る発言に出会えることであろうか。
時事解説本として多くを期待すると、時勢の変化があるので、ちょっとね、と思うかもしれないが、近しい時代の国際情勢をネタにした「歴史書」の一つとして読んだほうが良いかもしれないですね。
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