ドラマチックでもなくセンセーショナルでもない「女性の貧困」問題は、社会意識の問題もあって、かなり根深い — 飯島裕子「ルポ 貧困女子」(岩波新書)

貧困問題が取り上げられて久しいのだが、「女性」の貧困をとりあげるばあい、とかく”性的”な色合いが加味されたり、シングルマザーに焦点が当てられるものが多いような気がしていたのだが、本書は「ドラマチックなストーリー」のない「センセーショナルでない」「女性の貧困」を取り上げる数少ないものといっていい。

構成は

序章 女性の貧困とは

1章 家族という危ういセーフティネット

2章 家事手伝いに潜む闇

3章 正社員でも厳しい

4章 非正規という負の連鎖

5章 結婚・出産プレッシャー

6章 女性の分断

終章 一筋の光を求めて

となっていて、女性の貧困のうち「実家にパラサイトする女性」「ニート・ひきこもった女性」「パワハラなどで仕事をやめた後、非正規になった女性」などなど、どちらかというと人目はひかないが、確実に、しかも多数存在する「貧困女性」の姿を、多くのインタビューをもとに構成されているのだが

女性の場合、「貧困」と「不安定雇用」はデフォルト(初期値)であることだ。・・取材対象者について、未婚で仕事が不安定(非正規あるいは無職)ということ以外、年収等の条件を設けなかったのだが、・・現在無職の人はもちろん、働いている人も「ワーキングプア」と言われる年収200万円を下回っていた。(P10)

働く女性の数は増え続け、1992年には専業主婦の数を上回った。しかし、その大半はいわゆる”主婦パート”と呼ばれる非正規雇用であった。男性稼ぎ主による包摂が前提のため、彼女たちの労働は家計補助として捉えられ、自立による賃金や待遇は得られない。こうして非正規で働く女性たちは雇用の調整弁として利用されてきたのだ。

しかし、実際には非正規女性=主婦パートばかりではなかった。時間的に非正規でしか働けないシングルマザーや単身で暮らすシングル女性の中にも、非正規雇用に従事している人は多くいた。しかし、待遇の悪さは問題になってこなかった、なぜなら彼女たちは「例外」であり「残余」であったからだ。(P12)

という事情もあるのだが、「男性稼ぎ主モデル」という長らく日本を支配してきた人生モデルのせいで、あたかも「透明」であるかのように扱われてきた「女性」に関する問題を表へ出してくる取組でもある。

とはいうものの、男性の貧困問題が教育環境の問題であったり、不況の問題であったりと、どちらかといえば外形的に捉えやすいものが多いに対し、「女性の貧困」は社会構造に根っこをもっているものが多く、なんとも複雑で、一刀両断に解決、といったことにはならないようである。

もちろん

高卒女性の需要が多いのは販売員やウェイトレスなど、雇用の非正規化が進んでいるサービス系の職種。かつて高卒女性には事務職の需要が多くありましたが、今、事務職は大卒女性で占められるようになっています。結果として高卒女性の仕事は非正規がメインになってしまう(P104)

といったことや

就職氷河期は多くの若者に厳しい試練を与えたが、最も影響を受けたのは、もはや”主流派”ではなくなっった短大卒の女性たちであった(P175)

バブル崩壊のみならず、グローバル化やオフィスのIT化によって「一般職」が担ってきた事務的、補佐的な仕事が減少してきたという背景もある。女子就職の多くを占めてきた「一般職」の削減はその後も進み、「契約」や「派遣」などの非正規に置き換えられていった(P176)

など、労働環境や経済環境に根ざすものも当然あるのだが、それに加えて

女性の場合、実家で家族と暮らしているとその中に潜む問題はほとんど可視化されることがない。これは男性と同棲している場合も同様だ(P41)

といった女性特有の問題が、一層複雑度を増している上に、政府も

政府が目指す、結婚→妊娠→出産→育児という”切れ目のない支援”は、各段階を踏まない家族、たとえば「結婚」を経ない非婚の母などは、望ましい「家族」と認めないという発想の表れに思われてならない。・・・家族の形が多様化しているにもかかわらず、いまだに”古い家族像に拘泥した少子化対策を行っている日本は時代に逆行していると言えるだろう(P161)

といった風で、昔ながらの「家族意識」が施策の考え方の土台になっていることも否めない。

どうもこの問題、「景気がよくなれば解決するさ」、ともいかないようだ。筆者の言う

私は女性が貧困から脱する一つの方法は、この「多様な選択肢」という考え方、すなわち結婚を前提とした意識を捨て「世帯主」としての意識を身につけることだと思っている。それは既婚女性も同様だ。当然、意識だけではなく、税や社会保障など世帯単位のものを個人単位に変えていく必要もある。

貧困率にしても世帯収入で見るため、一人暮らしをしない限り、女性の貧困が不可視化されてしまうことは、これなで書いてきた通りだ。世帯に隠れてしまうと貧困であることすら認めてみらえない女性の状況を可視化させるためにも、”世帯主”を意識することは重要な第一歩であると言える。(P219)

といったソフト面から始めないといけないとしたら、時間もかかるし、かなりの難物ではある。これから、AIによって職業構造も大変化するであろうし、さて、どうしますかね。

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