「調べる」ことの多様さと混沌 — 木村俊介「「調べる論」ーしつこさで壁を破った20人」(NHK出版新書)

世の中の「調べる」に従事している人へのインタビューの記録である。ただ、構成は

第1章 調査取材で、一次資料にあたる

「一次情報を、引いた視点で集めたくて」(フリーライター 鈴木智彦)

「選挙活動って、やっぱりいやなものでしたよね」(ジャーナリスト 出井康博)

「罪深い取材をするからには、まっとうなものを書きたい」

(開日新聞学芸部記者 栗原俊雄)

「15分間で1000字を書かなければならない時もある仕事です」

(スポーツ報知プロ野球担当記者 加藤弘士)

第2章 「世間の誤解」と「現実の状況」の隙間を埋める

「現実の解決策は、面倒な作業の後にしか見つからない」

(教育社会学者 本田由紀)

「少し前まで、日本に貧困は「ない」とされていたんです」

(貧困問題研究者 阿部 彩)

「情報の流通が、病気への誤解を深める場合もある」(内科医 本田美和子)

「本当の話は、何回言っても嘘にならない」(雑誌編集者 浅川芳裕)

第3章 膨大なデータや現実をどう解釈するか

「流れに逆らうと、非効率的なお金の使い方になる」

(為替ストラテジスト 佐々木融)

「調査は折りてくる瞬間に一気にまとまるもの」(文化人類学者 渡部 靖)

「世界初の調査ができ絵も、意味を捉えるのが難しい」(海洋生物学者 佐藤克文)

「私の役目は、企業が改革を進めるための触媒です」

(ヒューマンエラー研究者 中田享)

第4章 新しいサービスや市場を開拓する

「営業の業務を調べなければならなかった」(航空機開発者 宮川淳一)

「M&Aの仕事って、結構、人間くさいですよ」(弁護士 淵辺善彦)

「人の話は、評価しながら聞いてはいけない」(悲嘆ケアワーカー 高木優子)

「業界の常識を調べ、別の常識を作り上げた」(演劇プロデューサー 北村明子)

第5章 自分自身の可能性を調べて発見する

「過去を調べなければ、美しさは生まれない」(狂言師 野村萬斎)

「同じ方針を取り続けたら、時代の変化がよくわかりました」(弁護士 国広 正)

「知性の本質は、アウトプットに宿るもの」(哲学者 萱野稔人)

「調査や経験を、作品にまで高めるために」(漫画家 田島隆・東風孝広)

終章 インタビューを使って「調べる」ということ

人の肉声を使って歴史を記録する

「偉そう」でないのが、聞き書きの魅力

なっていて、「調べる」といっても、単に「調査」や「研究」をしている人だけではなく、「現場で物事を新しく把握し、人に直に伝えることで業務を切り開いてきた実務職や・・・も一種の「調べること」と捉え」(”はじめに”より)て、インタビューし、収録してあるので、一種の「混沌」が生じてくる。

なので、いわゆる「調べる仕事」であるライターなどを中心に取り上げた第1章から第3章までと、第4章と第5章では、かなりの印象が違うといっていい。

それは、シベリア抑留を調査した、毎日新聞記者の栗原氏の

ぼくの著書に登場するのは歴史的な人物ではありません。でも、活字にしておけば「そんなことがあったんだ」という発見がある。それから、・・・残しておけば10年後、20年後に読んでくれる人とつながれるという確信がある。(P45)

その時なら大和のこと、今回ならシベリアのことについて、いろいろな人がいろいろなことをおっしゃるわけですよね。しかし、それが客観的事実とは限らない(P46)

と、悲嘆ケアワーカー 高木優子氏の

私がケアに入ったときに一切の評価をしないのは、つまり、評価というのは話の「伸びやかさ」を奪ってしまうからなんですね(P182)

という言葉の間に、「調べる」という事項についての共通項があるのかないのか、途方にくれてしまうのが正直なところ。

ただ、まあ、本書の持ち味は「調べる」ということを広義に捉えた場合に、それに携わえる人々の多様さ、違いを楽しんだり、「ほう」と意外性に驚いたりすればよいのであって、難しく一本調子に本の主意を汲み取る必要ないのであろう。

さて、この混沌を、あなたは楽しめますかどうか。

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