「堅物同心」+瓜二つの「女形役者と花魁」の異色トリオの捕物帳 — 近藤史恵「猿若町捕物帳ー巴之丞鹿の子」(光文社文庫)

時代小説、特に捕物帳の書き手には、ミステリーの出身者と大衆小説・純文学の出身者の二通りの流れがあるような気がしていて、ミステリー出身者の捕物帳の特徴は、人を驚かす仕掛けを放り込んでくるところと事件のディテールとか細部にこだわるところであろう。
「サクリファイス」などの自転車小説とあわせて「タルト・タタン」シリーズや「モップの魔女」シリーズなどのミステリーの著者、近藤史恵氏による本作も、その特徴を見せていて
「女が犬の子を孕んだそうだよ」
(中略)
くすくすと笑いながら、二人は夜具の上に倒れ込んだ。障子に映った影が重なる。
もし、この閨の出来事を影から覗くものがいたならば、驚いただろう。
女と男は、同じ姿形をしていた
といった書き出しや、 
さらには、作中で起こる殺人の被害者の娘達がいずれも「巴之丞鹿の子」の帯揚げで絞殺されるという事件の凶器は、人気役者にちなんだ巴之丞鹿の子の偽物という設定や、矢場で働いているお袖とおそらくは貧乏旗本の四男坊・藤枝小吉が雨宿りのお寺の軒下で知り合い、やがて良い仲になっていくといった話が、主人公の同心・玉島千蔭を中心に、どことなく胡散臭い、女形役者の水木巴之丞と座付作者(見習い)の桜田利吉、巴之丞と幼馴染らしい、花魁の梅が枝、とクセのある登場人物を配しながら、二重三重に筋を走らせていくという手法はミステリーそのもので、捕物帳でも人情噺を中心に語られていくものとはちょっと毛色が異なっている。
事件そのものは、巴之丞にちなんだ「巴之丞鹿の子」の帯揚げで絞殺されると連続殺人の謎を解いていく設定で、謎解きの中心は、棒手振りの娘・お弓の殺人の謎解きを中心に進むのだが、あちこちに筋が散らばるところもなく、しつらえたような密室も登場しない、ごくまっとうな「捕物帳」といっていい。  
ネタバレすれすれでいうと、冒頭にでてくるお袖という娘が、事件のキーといて使われていたとは思わなかったのは、当方の不明の限り。事件の解決の糸口となる人物を詳細に描写しておくことは、ミステリーでよくあるのだが、それが犯人というのがよくあるので、彼女ないしは彼女の恋人が怪しいよね、とまんまと作者の罠にはまっていたのであった。 
最後に、このシリーズの重要な副主人公である女形役者・水木巴之丞と彼の幼馴染の花魁・梅が枝は、主人公の同心・玉島千蔭の協力者になったようであるが、なんとなく次作以降で大ドンデンがありそうな気がするのは、当方だけであろうか。

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