昔ながらの「骨っぽい」時代小説の幕開け — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 雛の鮨」(時代小説文庫)

初版が2007年と10年前の時代小説であるせいか、今時の時代小説の「ふわっ」とした感じは薄い。主人公は、長崎奉行を務めたこともある名門・鷲尾家の家臣であったが訳あって出奔し、今は料理屋の板前をしている季蔵(武家の時は、「堀田季之助」という名)という男が主人公。さらにこの料理屋が実は曰く付きで、といった設定で、かなりオーソドックスな時代小説。
 
収録は
 
第一話 雛の鮨
第二話 七夕麝香
第三話 長次郎柿
第四話 風流雪見鍋
 
の四話で、全体を通じて、季蔵が料理屋を継ぐ経緯と、出奔した旧家の因縁を断ち切る筋立てで、シリーズの幕開け本という立ち位置。
ざっくりとレビューすると
 
「雛の鮨」はこのシリーズの発端話。季蔵が板前をしている「塩梅屋」の主人・長次郎が殺されて、彼が実は隠密・密偵のような役目を務めていたことがわかる。そして、北町奉行の烏谷椋十郎から跡を継ぐよう勧められるのが次に続く設定。この話の主筋は、雛人形の老舗・千代乃屋の若主人が長次郎と同じような手口で殺された事件。美しい娘が懸想されて苦しむのはよくないですね、というのが実感。ちなみに「雛の鮨」とは、塩梅屋が作る雛祭りの鮨弁当で、五目寿司に隠し味の煎り酒を利かしたものらしい。
 
「七夕麝香」は、浮世絵に描かれた市中の美女がかどわかされたり、殺されたりといった事件。謎を解く鍵は、麝香の匂いのする匂い袋であるのだが、ここで、季蔵の旧主である鷲尾家が登場。彼が出奔する原因となった若殿の残忍な色好みが明らかになる。塩梅屋のおき玖も「あわや」というところで難を逃れるのだが・・といった展開。
 
「長次郎柿」は、江戸の闇を支配する虎翁に囚われの身になっている母子を助け出す話。助け出すキーとなるのが「長次郎柿」なのだが、これは渋柿をあわせて熟し柿にしたもの。当方としては、じゅくっとした柿より、カリッとした柿の方が好みなのだが、爛熟好きの方には熟し柿の方が通好みということか。
 
最終話の「風流雪見鍋」は、季蔵の仇敵である鷲尾家の若殿・鷲尾影守を討ち果たす話。もっとも、剣術でどうこうという話ではなく、鷲尾家の家督争いに巻き込まれるうちに敵討ちがなりました、という他力本願もの。風流雪見鍋は、はまぐり、かまぼこ、くわいに、海老、鯛、平目、焼き椎茸、しめじ、うずら卵、しらたき、ゆば、生麩などなどいれた寄せ鍋(「蓬莱鍋」ともいうようですね)らしく、家督争いの屋形船で供されるのだが、この鍋の具に影守の陰謀が仕込まれるのだが・・・、という話。
話の終わりに、元の許嫁の「瑠璃」も助け出されるのだが、騒ぎの中で正気を失ってしまうというなんとも「次巻以降を待て」といわんばかりの展開。
 
さて、シリーズの幕開けながら、市中の探索方を引き継ぐ話やら、美しい女が生贄のように時の権力者のもとに囲われたり、といったことで、少々重い幕開け。
ではあるのだが、最近の「スフレ」のように口当たりの良い時代小説もよいが、こうした「焼きおにぎり」のような時代小説もそれはそれでよいもの。そろそろ。こうした「ガツン」とした時代小説の復権もありうるのですかね、

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