幕末の落語家の周辺で起きる事件の数々 — 和田はつ子「円朝なぞ解きばなし」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズとは同じ作者の噺家の三遊亭円朝を主人公にした推理譚。今回の主人公は岡っ引きでもなく、裏稼業をしているわけでもないので、日々の暮らしの周辺で起きる事件なのだが、物語が進行するにつれ、有名な盗賊が絡んでくるのが捕物譚の所以。
 
収録は
 
「幽霊師匠」
「怪談泥棒」
「黄金往生」
 
の三話。
 
ざっくりとレビューすると、最初の「幽霊師匠」は円朝の師匠の二代目円生が幽霊となって家族の住む家のあたりに現れるという話。円生は、自分より芸達者な円朝に嫉妬して数々の意地悪をいたが、まだ恨みが残っていて、この世の現れるらしい。円生の家族の家の近くでは、その噂を嫌ってか、引っ越しが相次ぎ、今や1〜2軒を残すばかりなおだが、その幽霊話の裏で企まれていたのは・・・、という話。少々、シャーロック・ホームズものを思い起こさせますな。
 
「怪談泥棒」は、円朝が、おとうと弟子の遊太を助けるために、遊太の知り合いの金持ちの隠居のところで、四谷怪談を音曲無しで演じるというもの。ところが、この席で隠居が所蔵する高価な茶道具が盗まれ、円朝がその嫌疑をかけらっれる話。謎は謎として、円朝の自分でも気づかなかった「恋心」に気付くのが、次の三話目の伏線となる。
 
最後の「黄金往生」は、円生の娘のお園と円朝を添わさせようという、円生の妻「おりん」の動きと並行するように、知り合いの岡っ引きやら、隣家の番頭やらが変死する。いずれも有名な盗賊が関わっているようなのだが・・・、という話で、ネタバレっぽくいうと、犯人は身内にいるっていうオーソドクスな仕立てではある。
 
三遊亭円朝はWikipediaで調べると、江戸末期から明治時代の噺家で人情噺や怪談話の名手。真景累ケ淵や牡丹燈籠の創作者でもあるらしい 。本書でも、その名人ぶりや真面目な暮らしぶりは、丁寧に描写されている。ただ師匠の二代目円生にひどく嫌がらせされたり、師匠の奥さんの「おりん」に岡惚れしているなんてことはWikiには出てこないので、この辺は”お話”として読んでおくところか。
 
どちらかと言えば、捕物風が強くて、江戸末期の寄席ものの風情があまりないののは残念だが、円朝の真面目な人柄が良い味を出している。また、当時の落語家の楽屋裏、ネタ裏みたいならところも感じられて、変わり種の芸人ミステリーといったところでありましょうか。ただ、シリーズものにはなっていないようで、この辺は、円朝や師匠の円生遺族の近辺でおきる事件の謎解きまでで、広めに物語が展開で行きなかったせいもあるかと推察。激動の時代を生きた噺家なので、この一冊で終わるのはちょっと惜しい気がしますな。

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