陰惨な事件は「獣肉」料理で口直しをしよう — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 ひとり膳」(時代小説文庫)

季蔵捕物控シリーズの第11弾は、季蔵の師匠・長次郎の残した「三段重提げ弁当」に関わる話。
収録は
第一話 梅見鰤
第二話 饅頭卵
第三話 吹立菜
第四話 ひとり膳
2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、この巻は、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった理由と、「鰤尽くし」を封印してしまった理由を解き明かすのが主眼となる。
ざっくりとレビューすると「梅見鰤」は今回の話の発端話。2月の声が聞こえるようになると、塩梅屋でも「梅」にちなんだ「梅見弁当」をつくる季節になるのだが、亡き長次郎が三段重の弁当箱を使わなかった謎と、「鰤尽くし」を封印してしまった謎を解き明かすのが、この巻の主筋であることが示される。
謎は謎として、
鰤に限らず鍬焼きなどの照り焼きには大きな鉄鍋が使われる、火にかけた鉄鍋に菜種油を敷き、そこに皮を舌にした鰤を焼き付け、返して焼き上げたところに、醤油と味醂、酒、砂糖を混ぜたタレを回しかけて調味する。タレの香ばしさが最大限、鰤の身の旨味を引き出す絶品であった。
という「梅見弁当」の華である「鰤の照り焼き」が旨そうである。
これを受けての第二話は、梅屋敷に出かけた、おき玖が落雷騒ぎに巻き込まれる。そして彼女が避難した梅見茶屋「亀可和」で、新酒問屋のお内儀さんの持つ「夜光の珠」の盗難騒ぎがおきるという話。風情と心根がぐるんぐるんと変わり、美しい女性の「怖さ」を感じるのは当方だけか。まあこれは伏線の筋で、本筋は、おき玖を助けてくれた「與助」の身の上が次話へと続く話となる。
第三話の「吹立菜」は、與助と梅見茶屋の女将が惨殺されるところから始まる。で、この話で、亡き師匠の長次郎が春慶塗の重箱を使わなくなった理由が明らかになるのだが、これが與助の話と関連してくるという仕掛け。
そして最終話「ひとり膳」で重箱の謎とか、鰤尽くし封印の謎とかが明らかになるのだが、このシリーズの常として、善人面した奴が、実は一番悪いヤツという原則がここでも遺憾なく発揮される。まあ、この巻は江戸の暗闇に巣食う「巨悪」ってやつは出てこないのだが、その分、悪事を見逃している有力者の姿と、子ゆえの闇そのものの母親の姿は余り心地よいものではない。なので
小鉢に叩いた鹿肉と、少々の味噌、おろしにんにく、きざみマンネンロウを合わせた。それを俵型に丸めて、小麦粉を叩き付け、ぷつぷつと小さな泡の浮いてきた小鍋へと落とす。
(中略)
シューッという小気味よ音がして、鹿肉の唐揚げが一つ、出来上がった。
(中略)
口の中いっぱいに香ばしさと清々しさ、そして、えも言われぬ、旨味が広がっていく。
といった鹿肉のカツレツで口直しとして、このレビューを了としよう。

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