いずれの時代も、大災害の後は事件が多数発生 — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 7 十万石の誘い」(二見時代小説文庫)

さて、公家武者シリーズの第7巻は、「振り袖火事」の後、まだ災害の余波が治まっていない江戸での様々な騒ぎや悪行を鷹司松平信平が平らかにしていく、といった構成。
 
第一話 信平、大名屋敷に乗り込む
第二話 十万石の誘い
第三話 土地争い
第四話 酔いどれ兵部
 
どことなく若手水戸黄門といった風情の出てきているのは、「良家の若様」の活躍物語というおおもとの筋立てゆえしょうがないところか。
 
まず第一話は、寺津藩の国家老の放蕩息子の悪行を、信平が懲らしめる話。この男、火事後の屋敷の建て直しで、人足の目付けに国元から派遣されたのだが、下屋敷で暮らすうちに賭場に出入りし、女遊びにふけり、といったところで、「遊蕩」の血はなかなか治まらないというわけか。で、この国家老の息子が、前作で長屋作りに世話になった弥三郎の想い人に懸想して、妾にしようと狼藉をはたらこうとするので、しっかりと懲らしめられるという筋。
 
第二話の「十万石の誘い」は、今回の火事で跡取り息子を亡くした大名家の跡取りに、信平が望まれる話。本来なら、紀伊大納言の娘を娶っているので、こんな話にはならないのだが、所望した相手方が、名門結城家ゆかりとあって、ことが面倒になる話。
 
第三話の「土地争い」は、火事の後にお決まりの「土地の境界争い」。争いの主は、父親同士は仲が良かったのだが、息子・娘の代になってから反目ばかりをしている蝋燭問屋と油問屋。ただ、諍いの主の片方の油問屋の娘は、相手が嫌いというわけでは・・、といった、よくある恋愛ものでもありますな。
なお、この話から、信平と松姫は晴れて同居。家臣も増えるのだが、幕府の監視の目に加えて、隣屋敷の紀伊大納言の監視の目もきついようですな。
 
最終話は、酔っ払うと剣豪になる浪人者と善右衛門の交流を書いた話。浪人の息子の仕官に絡んで、その息子の通う剣術道場の先輩たちや盗賊たちとの大立ち回りは、この話のお決まり。盗賊の頭の名は「蛇の権六」といわれる執念深い、忍び崩れの盗賊なのだが、「蛇の権六は、抱いていた若い男の裸体から離れると、襦袢を腰に巻いて手下どものもとへ出て来た。・・・徳利の酒をぐびぐびと呑んだ権六は、怯えた目を向ける門弟の前に立つと、鉄漿に染めた歯を見せて、不気味に笑った」という記述に出くわして、「盗賊は男」と決めてかかる、当方の考えの固さに反省いたす。
 
さて、今回のシリーズとしてのトピックは、晴れて松姫と同居を始めたといったところだけで、今巻の主たるところは、江戸の火事後の信平の活躍譚。もともと、肩の凝るシリーズではないので、さくさくと信平の活躍をお愉しみあれ。
 

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