大正期のささやかな「幸福感」を味わおう — 長田佳奈「こうふく画報」(ぶんか社)

なんとも不思議な味わいである。時代は大正時代。おそらくは東京の下町あたりを舞台にした短編マンガ集である。
 
収録は
 
第1話 おかしなふたり
第2話 悩みの箱
第3話 お赤飯の日
第4話 戀の予感
第5話 小さな訪問者
第6話 思えば思わるる
第7話 良藥口に旨し
第8話 勿怪の幸い
第9話 魔法の手
第10話 餅は餡でかたくなる
第11話 最上のもの
番外編 或る日
番外編 大團圓
 
となってはいるのだが、第1話から第11話まで、同じ街に住む人達の物語であるので、相互に関連はしてはいるのだが、一つの筋立てで語られているものではなく、いわば「小咄」の集合みたいな感じである。
 
そして、語られる話も大きな事件が起きるものではなく、例えば、第1話の「おかしなふたり」は和菓子屋の若主人と従業員がお菓子をつくって売る生活を描いているのだが、この若主人が几帳面なために変わった行動をとり以外は目立っておおきな事件もない、といった具合であるし、第6話の「思えば思わるる」はお見合いで結婚したばかりの夫婦のまだぎこちないが、それおれが愛情を育てていくふんわりとお話である。
 
絵のタッチは、どことなく「高橋葉介」を思わせるので、先入観から、途中で不思議な出来事が・・・、と思ってしまうのだが、その期待はしっかり裏切られる。
しかし、読むうちに、大正時代の庶民の暮らしの、なんともいえない伸びやかさ、戦乱の合間の明るさと幸福感といったものが伝わってきて、しっくりと読めるマンガに仕上がっているのは間違いない。
 
少々ささくれた気持ちになっているときには、心の沈静化に、よく効く「お薬」になりますね。

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