「炊き込みご飯」よろしく事件の種類がてんこ盛り — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 秋はまぐり」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズの17弾目の「秋はまぐり」は、表題通り、季節は「秋」。前作の「夏まぐろ」を前編に、今巻を後編に、といった感じで読むとよい。収録は

第一話 長屋はぎ

第二話 さんま月

第三話 江戸粋丼

第四話 秋はまぐり

最初の「長屋はぎ」は旨いと評判なのだが限定100個しか売らないという「おはぎ」の名手の婆さんが誘拐される。そして解放の条件が「おはぎ」を500個作って売るという、ふざけた内容のもの。当然のように季蔵が手助けに乗り出すわけだが、誘拐の本当の理由に、とあるお武家の秘宝が・・・、といった筋。

残りの「さんま月」「江戸粋丼」「秋はまぐり」は最初の「長屋はぎ」を導入譚にして、石原屋という油問屋を主な舞台に事件が展開する。この店の15年前にかどわかされた娘・藤代が名乗り出てくるのだが、この娘の真贋の確認を縦糸に、死んだ主の遺した金の仏像の相続争いを横糸に話が展開。途中、この藤代を名乗る娘が変死したり、最後の「秋はまぐり」では死人の蘇りとその死人に殺された噺家も出て、と相も変わらず殺人事件がぽいぽいと起こるのもこのシリーズの特徴ではある。最後は、前作「夏まぐろ」で出てきた、死人づくりの黒幕も顔を出し、さらに、夏まぐろで謎のままになっていた別嬪の女の正体も明らかになって・・、といったところで、江戸の闇の黒幕退治、といったいつものところに収めて溜飲を下げる。

そして、今回の惹かれた料理は

刻み終えた秋刀魚には、生姜汁と醤油、酒、味醂少々で味をつけておく。

昆布で出汁を取った大鍋に、短冊に切り揃えた大根を入れて火が通るまで煮て、ここに、刻んだ秋刀魚をつみれのように丸めて加える。石づきをとってばらしたしめじは最後である。

という秋刀魚の「するもん汁」や

俎板の上のなまり節がほぐされ、大きめにほぐした身と細かな見が容易された。

牛蒡もまた、やや厚くそぎ切りにしたものと、薄く笹がきにされたものが必要だった。

酒、醤油、味醂、少々の砂糖、生姜汁の入った二つの小鍋に、大きめのなまり節と厚めのそぎ切り牛蒡、細かくほぐした身には笹がきが合わされ、各々別々に煮付けられる。

細かなほぐし身と笹がきのほうは、準備してあった米と合わせて鰹飯に炊き込まれた

という「かつお牛蒡ご飯」こと、名を改めて「江戸粋丼」。双方とも地味ではあるが、しっかりとした味わいがありそうで、酒の肴にはならずとも、腹の空いた時にがっつりと食いたい「飯」ものが登場する。

本巻は、誘拐事件あり、大店の財産争いあり、死人の蘇り話あり、とかなりの盛り沢山なのであるが、これは秋に旨い炊き込みご飯と同じで、それぞれの材料の旨味を味わいながら、最後は満腹になりつつもお代りをしてしまう、秋の味覚によく似合った構成ではありますな。

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