江戸時代はいろんな職があって、かなり面白き時代ですな — 上田秀人「江戸役人物語 武士の職分」(角川文庫)

「留守居役」であるとか「勘定吟味約」であるとか、変わった職に就いている武家の活躍を描いてくれる筆者による、江戸幕府の変わり種役職の物語である。

構成は

変わった役職についてのまえがき

第一章 表御番医師の章

第二章 奥祐筆の章

第三章 目付の章

第四章 小納戸の章

となっていて、それぞれが特徴ある「職」のそれぞれの持ち味についての掌編。

ただ、表題を見てわかるように、「奥」「表」「小」といったなにかしらういわくありげない「頭文字」がついて、なにか本筋は別にあるような印象を与えてくれる。

もともと、江戸時代のお武家の職は、ダブルスタンダードというかリダンダンシーが確保されていて、戦時・緊急時に怠りないように設計されているせいか、とかく冗長である。本書にでてくる「奥祐筆」はもともとの「表祐筆」から職権を奪うような形で成立したものであるようだし、「小納戸」役は、鎌倉・戦国時代からの主君の近臣であった「小姓」で足りていれば生まれようもなかった「職」である。そして、「目付」も、もともとが「戦目付」としての生い立ちを象徴するかのように、本来の体制が全うにしていればそれほどに恐れられたり、権力をもつはずのないものである。

ただ、残念なことに、正統な権威は長引けば長引くほど、「腐る」ものであり、また、正統はとかく下々の声は忘れがちなものであり、そこに、ダブルの立場が成立する余地もでてくるし、また出てきて「正統」をぐらぐらさせないと、世の中面白くないよね、と、辺境から中央を脅かすことを面白がる性向の当方としては、江戸期のダブルスタンダードが好もしく思えるのである。

外様の留守居役や奥右筆、御広敷用人といった「コア」な役職の活躍するシリーズの箸休めに、読んでおくのも悪くないですよ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました