「夜の歓楽街」は、その「悪役性」を払拭できるか — 木曽 崇「「夜遊び」の経済学 世界が注目する「ナイトエコノミー」(光文社新書)

「夜の歓楽街」は、古から男たちの憩いと夢の場所でありながら、律法や道徳の守護者からは、いかがわしい悪所として非難の場所となってきたもの。本書は、国際カジノ研究所所長の手による、「ナイト・エコノミー」の振興に関する提案といったもの。2017年6月の初版であるので、1015年11月に成立した「IR推進法(カジノ法案)」の大賑わいの議論から生まれてきた一冊といっていいかも。
 
構成は
 
第1章 強力に「消費」を促す夜の経済
第2章 「世界」で成長する夜の産業
第3章 夜の「観光」を振興する
第4章 街を活性化する「深夜交通」
第5章 キッカケをつくる「生産性向上」と「法改正」
第6章 来るべき「リスク」に向けて
終章 「統合型リゾート」と「カジノ」
 
となっていて
 
ナイトタイムエコノミーの振興は、これまで消費の場として重要視されてこなかった消費者の夜の時間帯を解放することで、現代の消費者に不足している「消費機会」を増やし、国及び地域の経済活性化につなげる施策
 
といった「ナイトタイム・エコノミー」、まあぶっちゃけ言えば、夜の飲み屋街などなどの夜の娯楽や習い事振興のメリットを説きほぐすところから始まって、イギリスの「ナイト・ツァー」(夜の皇帝)をはじめとした各国の施策の紹介、そして、統合型リゾートやカジノが成功する要因といった流れで展開されている。
 
途中には、日本の「ゆう活」や「プレミアム・フライデー」など、あっという間に失速してしまった施策や、歓楽地が賑やかになると必ずでてくる「客引き防止条例」の功罪などにも及んでいるので、まあ、この問題については、新書ということもあって懐に負担をかけずに、ざっくりと鳥瞰することができる。
 
とりわけ、地方自治体の観光行政の担当者、それもいわゆる都会の歓楽地から遠い、「自然はいーっぱいあるよ」的な観光地の振興を担当させられている向きは、本書の
 
「観光消費」という一点から見た場合、文化や自然による誘客というのは消費をそこに直接生むのが難しい。・・・自然観光に至っては、そもそも自然の散策に「お金を払う」という観点をもっている観光客がほとんどいない(P65)
 
人間の消費というのは街に出て買い物をしたり、何かしらの施設を利用し、サービスを享受したりという現在進行形の「人間の営み」の中にしか生まれない(P65)
 
昼の「歩き食べ」だけでは儲からない(P72)
 
といったところは、日頃から身にしみているところもあるだろうから、ひとまずは目を通しておいて損はないだろう。
 
ただ、ナイトタイム・エコノミーの振興が本書を読めば容易にできるか、となると、そうは問屋が卸さないわけで、
 
街の浄化や治安悪化に関する過剰なる懸念は、ナイトタイムエコノミー振興の論議過程において必ず「振り戻し」的に挙がってくるものである。
 
といったハードルを乗り越えて、夜も含めた観光振興をするには、本書でも紹介のあった「福岡市」のような行政の強いガバナンスと地道な活動が必須であるようだ。
 
「水清ければ魚棲まず」とはいうものの、カジノを認め新しい観光国家に舵をきったシンガポールの施策も、それまでにはかなりの紆余曲折と国民間の大議論があっての産物であるらしい。さらには「夜は寝るもの」といった農民国家的な色彩が賛美されるのが我が国のお国柄でもある。この案件は、これからも長い間議論が続いていき、しかもその落ち着きどころはまだわかんないよな、と思った次第であります。
 

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