数馬の「会津行き」は、なかなかの収穫を得た旅になりましたな– 上田秀人「百万石の留守居役 6 使者」(講談社文庫)

外様小藩の留守居役の宴席でしくじり、薩摩藩から、加賀藩へ「お手伝い普請」を押し付けるための格好の材料として狙われることとなった数馬である。その罠をしかける薩摩藩主催の外様組合の宴席に欠席させるため、会津・保科家を使者として出向かされることとなったのだが、その会津道中での出来事が、今回の主な筋。
構成は
第1章 街道の景
第2章 国元の策
第3章 国元留守居役
第4章 弁舌の戦
第5章 老中の借り
となっているのだが、数馬が使者となって出向く理由の「前田綱紀の継室の相談」というのが、後々、これ以降のシリーズの話の展開にえらく影響してくる。というのも、前田綱紀は、保科家から正室を迎え、それが早世している。今まで保科家に遠慮して継室(ぶっちゃけ後妻だよね)を入れなかったのだが、正式に探し始めたとなると、あちこちの大名家が前田家の援助を狙ったり、味方に取り込もうと動き出す、ということになるらしい。
本巻の展開は会津で挨拶だけで帰れると思ったら、藩の重鎮・西郷頼母に呼び出されて丁々発止のやりとりをしたり、数馬をつけねらう三人組が会津まで出張ってきて、帰りの道中での大立ち回りがあったり。留守居役として成長しつつある数馬の交渉術の進歩を感じたり、数馬・石動・佐奈の剣技や忍技の冴えが見られたり、結構血湧き肉躍る風情で、時代小説だなぁ、と楽しく読める仕上がりである。
さらに、このシリーズの愉しみの一つは、この時代の江戸の小さなTips、それも武家の「中」の話であるとか、吉原の風俗とかで、今回は、吉原で茶を立てるとき、
茶道ではきっちりと膝を揃え、姿勢を整えて行うが、揚屋の茶は、遊女が肩膝を立てる。お尻を座敷につけ、片膝を立て、残りの足をあぐらに組む。仏像にある半跏思惟像の形が近い。
片足を立て、片足を組む形にする。当然、裾は割れる。小袖の裾だけではない。このような姿勢になれば、湯文字まで開く
 
といったところを紹介しておこう。
さて、留守居役に、未だあちこちで火種をつくるものの、着実に逞しくなっていく瀬野数馬。晴れて。「琴姫」と一緒になるのはいつでありましょうか。それとも、それを待たずに「佐奈」に手をつけてしまうのでありましょうか、まあ、そんなあたりも密かな愉しみになってきた「百万石の留守居役」シリーズでありますな。

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【百万石の留守居役シリーズ】

 

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