企業社会を信じて犠牲になった人のことを忘れてはいけない — ルポ「過労社会」ー8時間労働は岩盤規制か(ちくま新書)

働き方改革法案が、裁量労働制についての調査データの問題で右往左往したのもつい最近のことであるのだが、本書は2015年8月の初版。2014年あたりから加速し始めた残業の縮減、それをてこにした裁量労働制の議論のはじまりのあたりのレポートである。
 
構成は
 
第1章 「残業ゼロ制度」の舞台裏
第2章 労働規制緩和を疑う
第3章 はびこる長時間労働
第4章 すさんだ職場
第5章 誰も守ってくれない
第6章 長時間労働からの脱却
 
となっているのだが、労働法制の議論云々は、このブログでは、ひとまず置いておき、当方として記憶にとどめておかなければ、と思うのは、本書がレポートした数々の長時間労働、そしてそれによる過労死の実例の数々である。本書では第4章から第5章のあたりである。
 
そこには、トヨタ自動車の開発のチーフエンジニアやシステム開発会社のSE、菓子メーカー、金融機関、居酒屋チェーンの「大床」や「ワタミ」など数多くのケースがレポートされている。電通の事件は発生が2015年12月であるので本書には掲載されてはいないが、皆、会社を信じ、会社のために、忠誠心をもって”懸命に働いた”末に過労死や過労自殺している、というところを忘れてはなるまい。
 
働き方改革では、高度プロフェッショナル制度や裁量労働制の「生産性向上」の部分と、これにより過労死が増加しないか、といったところに議論が集中しているのだが、長時間労働の問題は、こうした労働制度の話の議論とあわせて、「組織への忠誠心」といった「組織論」のメンタルな部分も考えないと解決しないのでは、と思えてならない。というのも、「組織内での評価」が、「長時間、組織内にいること」であり、会社組織内で評価されること以外に自分の評価基準がない、という状況では、減りようがないのではなかろうか。
 
働き方改革が迷走を始めた今、我々が自衛するには。「会社」や「組織」に対する、こちら側の「スタンス」を変える、といったことを始めたほうがよいのかもしれませんね、
 

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