シルバー世代が持つ隠された力とは — 寺島実郎「シルバー・デモクラシー 戦後世代の覚悟と責任」(岩波新書)

日本のベビーブーム世代(団塊の世代)とは1947年〜1949年に生まれた層で、この期間の出生数は合計すると800万人を超えるらしい。この団塊の世代も今は70代にさしかかろうとしているわけだが、本書は、この団塊の世代を先頭に昭和20年代の終わりぐらいの世代についての論述。なのであるが、この本で取り上げる世代が当方にとても近く、レビューが難しいなー、というのが本音ではある。
 
構成は
 
第1章 戦後民主主義の総括と新たな地平
 ー「与えられた民主主義」を超えて
第2章 戦後世代としての原点回帰
 ー1980年という時点での自画像
第3章 それからの団塊の世代を見つめて
 ー21世紀に入ってからの二つの論稿
第4章 2016年参議院選挙におけるシルバー・デモクラシーの現実
 ーなぜ高齢者はアベノミクスを支持するのか
第5章 2016年の米大統領選挙の深層課題
 ー民主主義は資本主義を制御できるのか
第6章 シルバー・デモクラシーの地平
 ー結論はまだ見えない、参加型高齢化社会への構想力
 
となっていて、第1章から第3章までは、筆者の戦後世代についての以前の論述の再掲。第4章から最終章までが、それを踏まえての、さて、その戦後世代(筆者は昭和20年代生まれを戦後第一世代、昭和30年代以降生まれを戦後第二世代と読んで区別すべきとしている)についての論述である。
 
戦後世代といっても年齢もとり、世の中に影響力など何もないのでは、と思われる向きもあるかもしれないが、それに対して筆者は
 
英国のBREXITに対し、43歳以下の若者の多くが反対したことは・・言及したが、米大統領選挙においても、出口調査などを参考に判断すると、若者の多くは究極の選択の中で、トランプよりもヒラリーに表を入れた。・・ここでも世代間ギャップが際立ち、シルバー・デモクラシーの陰の問題が透けて見えるのである(P135)
 
と、実はその影響力がバカにならないことをまず示していて、
 
都会の高齢化は容易ならざる問題を顕在化させつつある。80年論稿の主役とした都市新中間層、つまり、都市近郊型の団地、ニュータウン、マンションなどに人口を集積させて産業化を進めたためにつくりだされた存在が、いま急速に高齢化し、それらの人たちの精神状況、社会心理が、これからの日本のシルバー・デモクラシーの性格を決めかねないような重要な要素になってきている
サラリーマンとして企業、団体、官庁などで働き、つまり機能集団としてのゲゼルシャフトに帰属じていた人生を送ってきた人たちは、ひとたびそこから去ったら、多くの場合、もはややることがないのである。
 
この社会的に孤立化しかねない高齢化した都市新中間層の社会心理が時代を動かすマグマとなって蓄積されつつある。(P166)
 
 
とあるように、これからの国の方向性を左右するのは、人口ボリュームとして多い「高齢層」が力を依然もっているということをまず押さえておかなければなるまい。そして、これらを踏まえながら筆者は、
 
高齢化し単身化している都市新中間層を、再び社会的な接点を拡大して、経済的にも精神的にも安定した主体にしていく構想(P172)
 
が必要であるとし、
 
やがて日本人は「食と農」に関われることが幸福の要素であり、そうした参画の仕組みを通じた社会との接点の拡大が、シルバーデモクラシーの質を高めることに気づくであろう。「食と農」を至近距離に引き寄せる社会システムを実現することが、高齢者に安定した豊穣な人生をもたらし、日本の産業構造を一段と重心の低いものにするであろう。(P177)
 
と、最近のリニア新幹線構想など新しい交通インフラも使いながら、都会と地方をつなぐ、新たな「農本主義」を提唱するのであるが、当方の思考は「戦後世代の影響力」といったところで立ち止まってしまう。
 
というのも、平成28年の人口統計で、60歳から70歳までの人口の合計は約1970万人、全体人口約1億2700万人の15%である。2040年代には高齢者が人口の4割を占めるという推計はさておき、選挙権は一人一票であることを考えると、現在においても、その影響力は巨大であるといっていい。そして、筆者の提案はありつつも、その「戦後世代」の動きは方向付けられておらず「バラバラ」のように思えるのである。すなわち「混沌」が我が国の方向性を決めているということではなかろうか。
 
といって「では・・」と方向性を提案することは本ブログの本旨ではない。「混沌」が力をもっていること、「混沌」が支配するところは方向性が予測できないゆえに「予測できない可能性」も秘めていること、そしてなんとなく、そんな「可能性」がよき可能性であることを期待していること、を表明して、まとまりがつかなくなったので本稿は終わりとするか。
 

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