悪党はしっかり信平に懲らしめてもらわないといけないね — 佐々木裕一「公家武者松平信平 9 将軍の宴」(二見時代小説文庫)

前巻で江戸を荒した女盗賊の騒動を収めたところとあって、今巻は江戸中を騒がすような悪党はひとまず鳴りを潜めている状態。ただ、弱い者の血を吸って生きている輩はつきないもので、今回は、そういう事件の解決譚。
 
収録は
 
第一話 鉄の証文
第二話 神楽坂の虎
第三話 天下の茶碗
第四話 将軍の宴
 
と四話。
 
最初の「鉄の証文」は火事から自家の財産を守ろうとして一種の火災保険を請け負う”金貸し”の悪行を懲らしめる話。
 
第二話の「神楽坂の虎」は、神楽坂の早坂道場と牛込御門内の飯田道場、二つの剣術道場のそれぞれの息子・娘の縁談話に端を発した、両道場の争い。陰に、息子の仕官を図ろうとする早坂道場の道場主である父親の奸計が話を陰惨にする。
 
第三話は、茶道具自慢の高家(こうけ)と、それをとりまく札差によって、寺宝の茶碗を自ら壊させられる住職の危難を救う話。とはいうものの、壊された茶碗が実は・・、というのはちょっと出来過ぎの感あり。
 
最後の第四話は、信平の実姉で、将軍の御台所の暗殺の謀略に、信平が立ち向かうもの。この事件を解決したのがきっかけで、信平は、江戸と京都、両方に屋敷を拝領するのだが、これがどういう展開を招くかは、次巻以降で、といったところである。
 
総じて、このシリーズは善玉と悪玉がくっきりと別れている。なので、時代劇っぽく、悪玉の悪辣さに憤慨し、主人公・信平が、満を持して立ち上がり、バッタバッタと悪党をなぎ倒す、といったところを難しく考えずに楽しんでしまうのがよろしい。「理屈はいいから、まず呑め」ってな居酒屋のやり取りっぽく読むのがよいのである。

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