東京大学発、マッキンゼー下車、ひとまずお笑い芸人行きの旅路 — 石井てる美「キャリアを手放す勇気」(日経ビジネス人文庫)

まず最初に、東大卒、マッキンゼーの社員だった私がお笑い芸人になって、かくも成功した秘訣は、とか、日々充実した生活を……と言った話ではない。身も蓋もない言い方をすると、「エリート人生を歩んでいた人が、有名会社を辞めた」顛末の話である。
 
構成は
 
第1章 マッキンゼーと私
第2章 私の決断
第3章 決断のその先へ
 
となっているのだが、そうした「会社を辞めた顛末」がなぜ、こうしたビジネス本たりうるか、というのは、辞めるまでの七転八倒と、辞めるに至った理由が、我々がビジネス人生で悩みを抱え、退く際へのヒントになる点であろう。
 
まず第1章は、著者がマッキンゼー・ジャパンに入った経緯と、マッキンゼーの社風というかビジネススタイルが中心で、例えば
 
マッキンゼーでは新入社員であろうと”バリュー(価値)を提供すること”が求められます。
 
とか
 
マッキンゼーでは”カンファタブルゾーン”にいてはいけないともよく言われていました。”カンファタブル”とは「快適な」とか「居心地がいい」という意味です。自分にとって居心地がいい場所にい続けていてはいけない
 
といった、コンサル中のコンサルの尖ったところが縷々紹介される。
 
その後、第2章、第3章では、そのマッキンゼーで壁に当たり、不適合状態になっていったところから、ワタナベエンターテインメントでお笑い芸人として再出発といった展開になるのだが、当方的に、おやと思うのは、著者が、辞めていったマッキンゼーをネガティブに考えていないこと。
 
むしろ、マッキンゼーで学んだ「思考方法」のおかげで、「辞める」決断もできたという感じで、それは
 
「イシュー」と呼ばれる”解決すべき問題”を特定し、その問題に対する解決策の「仮設」を先に立てます。その仮設が正しいかどうかさまざまな上方をもとに検証し、仮設が間違っていると分かればすぐに書き換えるという、強烈な「仮設思考」のもとに進められます。このとき、仮設を検証するための情報を集めるのも、分析するのも、早くて速い。仮設が間違っていると分かった瞬間、それまでのそれに注いだ労力を惜しむこともなく、バッサリと捨てるのも早い。
 
とか
 
自分の状況があまりよくないと感じる時はついネガティブな方向に考えててしまいがちでしたが、それはある意味勝手な思い込みです。これは何も、いつでもポジティブに考えようと言っているわけではなく、挑戦をする環境にいるといつも目の前に壁があると感じるのは当然で、状況が悪いわけでもなければ、ネガティブに考える必要もまるでないのです。
 
といったところに顕著。
 
確かに、筆者の言うように、今までの方向と違うところへ進む時に一番ネックとなるのは
 
決断がときに困難なのは、何かを手見する代わりに、「過去に手に入れてきたもの。今手にしているもの、将来手にいれられるかもしれないもの」を失うリスクがあるから
 
といったことに間違いなく、一歩踏み出すには、「仮設が間違っていたら、バッサリ捨てる」といった乱暴さも時には必要ということなのであろう。
 
筆者は、失礼ではあるがまだ、「売れない芸人」の一人である。ただ、彼女が今までのキャリアを「捨てた」決断と、決断できた方法論は、「退く」あるいは「転身する」ことに臆病になりがちな時、一つの道標となることは間違いない。
 
筆者の言うように
 
人間は、最後になみんな必ず死んで全て終わってしまう。「もったいなkら」と、レールの上でオプションを拡大し続け、それで死ぬときまで本当にやりたいことに挑戦できなかったら、こんなにアホらしいことはありません。
 
というのも、ある意味、真実。「即断・即決・即行動」というのも、ガサツな方法ではあるが、「正しい行動方針」の一つであるかもしれんですね。
 

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