裏切り者と呼ばれても「家」を再興した男の物語 — 上田秀人「梟の系譜 宇喜多四代」(講談社文庫)

戦国ものの歴史・時代小説の人気どころは、やはり尾張の織田信長・豊臣秀吉あるいは甲府の武田信玄、越後の上杉謙信といったところで、一段下がって、伊達政宗、徳川家康といったところであろう。
残念ながら、中国地方の武将は、ときおり毛利元就がでてくるぐらいで、本書の主人公・宇喜多直家が主人公として取り上げられることは寡聞にして知らない。四代とあるのは、直家の祖父・能家、父・興家、本人、息子・秀家の四代に渡る話であるからなのだが、実質は直家が家を再興する話をメイン。
構成は
第1章 流転
第2章 雌伏
第3章 飛翔
第4章 西方の敵
第5章 輝星の宴
第6章 継承の末
終章
となっていて、宇喜多直家(幼名・八郎)が元の居城・砥石城を攻め落とされ、流浪を始めるところから、備前・美作・備中を治めるまでになるが、病に倒れ、息子に家督をゆずるところまでが本編。終章は、息子・秀家が家を継いでから宇喜多家がどうなったか、まで。
おおまかな印象をいえば、世間で表裏者(裏切りの多い者)ということで有名な宇喜多直家であるので、故地を取り戻し、領地を増やして行く過程も、妻の父を忙殺したり、織田に味方したかと思うと、一転して毛利に就いたり、とあまり明るくない筋立てではある。
しかも、おなじ表裏者として有名な「松永久秀」のように天下人を衝動のように裏切って、天下を揺さぶったりということがないので、なおさらである。
ただ、それでも、最後まで読み進んでしまうのは、一度潰された家を、兄弟の力、家臣の力を信じて、織田・羽柴や毛利、あるいは主家の浦上家、仇敵の三村家などに圧迫されたり、騙されたりしつつも、懸命に家の再興を図るのが、組織の中で思うに任せなかったり、ライバル企業に出し抜けれて涙をのんだり、と我々の身近な暮らしを思い起こさせるからなのかもしれない。
まあ、戦国国盗り物語の主人公のような華々しいことはそう起きないというのが現実というもので、出世街道を駆け上がっていく時代小説wp読む一方で、こうしたタイプのものを読んでおくと、精神的なバランスがとれて、悪酔いしないかもしれない。
終章の所で、家を継承していくことを切望して病死した直家の死後、宇喜多家におきる出来事は、ありゃりゃ、と、ひどく苦いものを飲ましてくれる。これも、世の常なのかもしれんですね。

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