継室探しは、加賀前田家を騒動に巻き込んでゆく。それにつられて数馬も・・ — 上田秀人「百万石の留守居役 7 貸借(かしかり)」(講談社文庫)

会津から無事、というか、怪我の功名の「おまけ」まで獲得して江戸へ帰参した数馬であるのだが、その「おまけ」を巡っての会津藩江戸屋敷との悶着に始まり、綱紀の継室探しが、いろんなことを呼び込んでくるのが本巻。
構成は、
第1章 五分と五分
第2章 吉原の主
第3章 宴の裏
第5章 女の鎧
第6章 光と闇
となっていて、最初は国元で、数馬の許嫁「琴姫」の誘拐未遂からスタートするのだが、この巻は、国元・加賀藩での跡目相続をめぐる隠れた対立の話やら、数馬が会津藩の宿老・西郷頼母からおまけのように得た「借り」をめぐって、会津藩の経験薄い留守居役が下手をうつ話やら、加賀藩の元留守居役で現堀田家の留守居役・小沢の謀み(これは堀田老中の謀みでもあるよな、きっと)を探り出す命を受ける中で佐奈が、小沢の罠を粉砕するも、新たな敵をつくってしまう話など、二筋・三筋の話が平行して流れる。
ひょっとすると、次巻以降の筋をどこへ枝分かれしてもいいように作者が巧妙に、こういう巻をつくっているのかもしれない。
ただ、こういう時代物の場合、あまり一本筋で展開されると飽きが来るもので、とりわけ、このシリーズのように、あちこちにエピソードや薀蓄が埋め込まれているものは、話があちこち飛んだほうが、趣が変わって楽しめる。
ということで、今巻では、吉原ネタでは「太夫道中」の
禿の声に合わせて高尾太夫が、左足をほとんど真横に蹴り出し、大きく弧を描いて前へと踏み出した。
そんなまねをすれば、裾が大きく割れ、高尾太夫の脛はもちろん、真っ白な太もも付近まで見える。もちろん、そこまで見えるのは一瞬で、高下駄を履いた足が地に着くなり、裾が閉じる
といったように「太夫道中」が実は単に太夫のお披露目だけでなく、極上の色っぽいベントであったことや、大名の移封後に
もっと質の悪いのは、隣を幕府領にされたときであった。幕府領は、初版よりも年貢が低い。・・・幕府領のほうが、百姓にはありがたいのだ。
・・・豊作が続けばいいが、凶作になったとき、その不満は爆発する。一揆になる。一揆は大名の大きな傷である。領内を治める能力なしとして、改易されたり減封、転封されたりうる理由になる。
といった、大名統制の手の内の細やかさなど、種類の多いTipsも満載である。
さて、物語の様相は、新米留守居役・瀬能数馬の活躍如何というよりは、瀬能数馬を狂言回しの中心に据えながらも、加賀前田家が、前田綱紀を軸に、堀田老中はじめ幕閣や諸藩の罠をかいくぐって、いかに「お家を守るか」といった感じが強くなってはいるのだが、一方で、武田なんとか、という無頼者の集団も現れてきて、数馬・石動・佐奈のチームとの闘いも見逃せなくなっている。
さまざまな要素を抱え込んだ時代物として、脂がのってきましたな。

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【百万石の留守居役シリーズ】

 

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