都の騒乱の根っこには江戸幕府の朝廷圧迫の歴史がある — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 10 宮中の華」(二見時代小説文庫)

前巻で、将軍御台所の暗殺の謀みから、実の姉の御台所を救った、信平であったが、その原因となっている都の騒動を鎮めるために、京へ出向くのが今巻。構成は
 
第一話 上洛の道
第二話 大井川の老馬
第三話 陰謀
第四話 やぶれ笠の鬼
第五話 宮中の華
 
となっていて、江戸からの出発から、京都での騒動の元凶と対峙するところまで。お供するのは、善衛門、佐吉、お初まではまだしも、同心の五味も同行することになるので、かなり大部隊での京都入りではあるが、都いり早々に将軍家から「京都所司代  」を命じられるので、まあ多いほどそれらしく物々しくて良い、ということか。
 
肝心の敵役は、前巻で、御台所暗殺未遂に深く関わっていた「藤原伊竹」と後水尾条上皇の隠し娘の「嵯峨」、そして、この女性の虜になってしまった下杉勝幸といった面々。もっとも、このシリーズ、悪役としてとことん懲らしめられるのは最小限にするといった不文律があるようで、最後まで悪役になるのは、前巻から因縁のある「藤原伊竹」のみ。
 
今回の筋は、単純化すると、「宮中の華」といわれ、天皇に愛された母親(沢子)の宮中からの追放後、落ちぶれつつも美しく成長した沢子の娘「嵯峨」の徳川幕府への深い恨みを利用して成り上がろうとする藤原伊竹の野望を松平信平が阻止する話なのだが、その脇に
 
上皇はな、皇族に根を張ろうとする徳川に抗うたのじゃ。徳川家の姫である東福門院とのあいだに生まれた女一宮を、未婚のうちに天皇にした。それが明正天皇じゃ。
(中略)
上皇の反撃に酔って未婚の天皇にされた明正天皇は、古よりの決まりによって結婚を許されず、生涯独り身。女としての幸せを奪われた。これにより、宮中の徳川の地は絶たれることになった。それに対する報復ともいうべきことが、遠く離れた江戸城で起きた。それはな、将軍家光に嫁いだ信平の姉孝子殿が、春日局の仕返しともいうべき仕打ちをされ、大奥から追放され、家光公から遠ざけられたのだ
 
といった、徳川幕府草創期の幕府と朝廷との主導権争いも色濃く影響していて、単純に、伊竹の無謀な野望のみが非難されるべきものではない。
このへんの幕府VS朝廷のところは、井沢元彦氏の「ダビデの星の暗号」あたりでも取り上げているのだが、そのレビューはまた別のところで。
 
さて、今回も首尾よく都の騒乱を鎮めた格好の松平信平なのであるが、この任務の完了とは別に、本当の慶事がある。それは何かは、本書の最後の方で確認あれ。
 

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