三件の殺人事件の共通鍵は「桐生紬」なのだが・・ — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 18 冬うどん」(時代小説文庫)

今巻の季節は冬。師走近くの、小雪のちらつく頃である。この季節、今でも外回りが続くと、昼時には何か温かいもの、しかも汁気のあるものが欲しくなるものだが、江戸の頃も気分は同じ。そうした商人たちに温かい昼飯を提供しようと、季蔵が思いつくあたりから始まるのが本書。
収録は
第一話 冬うどん
第二話 風薬尽くし
第三話 南蛮かぼちゃ
第四話 初春めし
となっているのだが、厳密な単話構成ではなく、三件の殺人事件を軸にしながら展開していく構成。
発端で起きる事件は、甲州商人・谷山屋の失踪事件。この甲州商人の妻・田鶴代が、北町奉行・烏谷が若い頃、想いを寄せていた女性らしく、これが本巻をリードしつつも、混乱のもととなる。この甲州商人、煮鮑や葡萄菓子を扱う商人なのであるが、この商人が旧来の取引先へ卸す量を二割減らしたいと伝え、ここに季蔵の旧友で、元噺家の廻船問屋・長崎屋が絡んできて、塩梅屋も他人事では済まなくなるという展開。
第二話以降、事件が二重三重に重なってきて、行方不明だったが谷山屋が、長崎屋の蔵で死体で見つかったり、呉服屋・京屋の若旦那が撲殺されたり、京屋の商売敵の丸高屋の娘が転落死する。いずれも、現場に桐生紬が残されていて、これが犯人につながるものと推測されるのだが、ここで、奉行の烏谷が、桐生紬の探索を中止させたり、谷山屋の妻・田鶴代が紬に絡んでいるような思わせぶりな発言をしたり、といった風で、なかなか的を絞らせないのが作者の腕の冴えであろう。
事件の謎解きは、何事もバインディングして考えてしまう盲点をついたところが肝で、江戸版ロミオ&ジュリエットが伏線となっているね、というところで詳細は本書を読んでいただきたい。
さて、このシリーズの魅力である料理のほう。今回は、うどんの他に葱尽くし、タルタ(タルト)、クウク(クッキー)かぼちゃ餡の薄皮饅頭といった料理・菓子が登場して、久々に色とりどりなのであるが、中でも惹かれるのは、第一話の「うどん」。江戸が舞台の話に「うどんか?」と思う人が大半であろうが、稲庭うどんを使って
鶏だんご鍋に倣って、鶏の旨味にまけないように、大鍋の汁の出汁はたっぷりの鰹節でとる。
ここへまず、旬の青物である。食べやすい大きさに切った小松菜、ダイコンや人参のように短冊に切ったねぎなどを入れて煮る。
野菜が煮えたら、叩いて粗みじんになっている鶏腿肉に、潮と醤油で薄味をつけ、団子に丸めて大鍋に落としていく。
(中略)
ここで、隠し味に鰹風味の煎り酒を使うと味に深みが余しながら、くどくならない。
細ねぎを小口切りにして散らして仕上げる
という、昼食のうどんにしては丁寧なもの。作中に、材料は値引きで仕入れているから良いが、薪代を入れると利はでない、というのも頷ける。
総じて、肌寒い季節に、温かいものを思い浮かべながら読むのが楽しい一冊ですな。
 

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