呪術の犠牲となった美少女は救われなければならない — 佐々木裕一「公家武者 松平信平 15 魔眼の光」(二見時代小説文庫)

幕府転覆を狙う豊臣秀吉の側近の末裔「神宮寺 翔」一派と、」家綱から、彼らの掃討を命じられた「信平」公との闘いがいよいよ火蓋が切られるのが本書。前巻までは、信平の実力を評価していなかった「神宮寺 翔」が本当の敵と認識し始め、いよいよ戦闘は本格化する。
 
収録は
 
第一話 弓の佐那
第二話 魔眼の光
第三話 伊次(これつぐ)の願い
第四話 復讐の炎
 
となっていて、前巻で、借金のかたに、領内の鉄山の支配権を渡した備後・布田藩が舞台。ここで、鉄砲の密造を行っているわけだが、この巻の、キーマンは、弓の名手で冷酷な美少女「佐那」。百発百中の弓の腕もあることながら、敵と思う相手の命を容赦なく奪うという殺人マシンのような存在で、この鉄砲の密造の秘密を守っているという設定。
 
幕府も手をこまねいているわけではなく、隠密を潜伏させるのだが。全て消息を断ってしまう(佐那と神宮寺一派が始末するんだよね)。なんとか内情を調べたいが、外様大名の所領内の捜査は、真正面からはムリ。そこで、布田藩の近くに所領をもつ旗本・玉野伊次に国帰りを命じ、その途中で布田藩内に一泊する、その一行の中に信平とその家臣が紛れ込んで領内に潜入するという段取りである。
 
もちろん、そう上手くはいかなくて、布田藩を牛耳る国家老の大木と神宮寺一派の知るところとなって、信平とその家臣はあわや、というのがお決まりなのだが、ここで、この巻の決め手となる変化球は、布田藩潜入の踏み台となった、玉野伊次という殿様。
この殿様、臆病者で知られ、血をみると卒倒する類で、おまけに武術より「妖かし」や「陰陽道」の書物が大好きという、武士としては使い物にならない類。これが、なんと「弓の佐那」にかけられた呪術を見抜き、佐那を救うきっかけとなるのだから、誰がどんなところで役に立つかは世の中わからないという典型的な事例か。
 
さて、今回の布田藩の事件はなんとか解決したものの、神宮寺一派が滅んだわけではない。舞台は九州に移って、第一シリーズ最後の決戦がありそうですな。
 
それにしても、徳川幕府ってのは、浪人数百人+数百丁の鉄砲で瓦解するほど柔いものだったのかな、と思わないではないのだが、その辺、識者の方どう判断されますかな。

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