新キャストも登場して、料理の工夫も幅が広がってきました — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 19 料理侍」(時代小説文庫)

料理人季蔵シリーズには、それぞれの巻ごとに象徴する新しい登場人物があって、ほとんどが事件の犯人であったり、事件に巻き込まれたりして消えていくのだが、中には船頭の豪介や、噺家あがりの廻船問屋の長崎屋など継続して登場して、季蔵の手助けをしてくれる名脇役もでてきて、話の幅を広げてくれるのも本作の特徴。
 
収録は
 
第一話 料理侍
第二話 烏賊競べ
第三話 春菓子箱
第四話 つくし酒
 
となっていて、今巻で、「よろず商い屋」と称して、自ら塩梅屋に売り込みをしてくる出張料理人の武藤多聞という侍が冒頭から登場するところから始まる。この侍、季蔵の師匠・長次郎が熟し柿を届けていた「太郎兵衛長屋」に新しく引っ越してきた浪人なのだが、8のつく日に、長屋の住人に手料理の夕餉をふるまうという奇特人で、これから複数巻で季蔵の手助けをすることになる。
 
さて、第一話の事件は、津田屋という扇子屋の主人が、街のごろつきに仮装した姿のまま殺されているのが発見されるのが始まり。津田屋の女房は、昔は小町と呼ばれた別嬪なのだが、この仮装癖にすっかり愛想を尽かして、夫婦中も冷め切り、といったところなのだが、事件を解くカギは、この夫婦のなれそめ。きれいな女の子が不良に絡まれているところを救った正義の味方、という昔ながらのベタな出会いが、悪いほうへ転がるとこうなるのか、と思わせる。
 
第二話の「烏賊競べ」の事件は、食通の戯作者の失踪と、その家で起きた戯作者の妻と版本の惨殺事件なのだが、この話の重要ポイントは、事件というより、季蔵、三吉、武藤多聞の烏賊料理競べ。「烏賊」というのは、万人の好むものではあるが、贅沢三昧の料理にはちょっと合わない気がして、この烏賊料理競べでも秀逸なのは、武藤のつくった「烏賊の塩辛」。もちろん
 
肝心なのは、羽州で”うろ”と呼ばれている、わたの漬け込みです。別に集めて塩を加え、じょのめ樽と呼ばれている、横に口がついた樽につけます。・・これが塩辛の漬け汁のもとになります。
(中略)
わかせたうろは、樽の底に沈むものと、上澄みの醤油のような色のものに分かれます。漬け汁にはこの上澄みだけを使うので、底に沈んでいる澱が混じらないように、じょのめの口から取り出さねばなりません。
(中略)
半年ほどかけて漬けた烏賊の塩漬けは、何回も何回も水を替えて塩抜きをします。この間、ほどよい塩加減の二番目の塩出し汁を煮立てて取っておき、じょのめ樽から取り出したうろの上澄みに、塩梅を見ながら混ぜて、本漬け用の漬け汁に仕上げます。塩抜きした烏賊は細かく刻み、よくしぼってこの漬け汁に入れ、浮き上がらないように軽い重石をかけて保存しておくのです。
 
といった時間と手間が味に集約していそうな出来物で、どうも呑みすぎてしまいそうな風情のものである。
 
第三話は、前話で事件のあった戯作者の家の近くの絵草紙屋の空き巣に始まって、向島の荒れ果てた寮で、質屋の主が殺された事件の謎解き。この質屋の主人、背後から撲殺されているのだが、年齢は40歳過ぎなのに、老人に仮装した装束で殺されているのが謎を呼ぶ。ただ、この話では、絵草紙屋の薬缶に甘い臭いのする小便がされていたりといった色物ネタがもとでその犯人が捕まるまで。
 
第四話は、第二話の戯作者の失踪事件+戯作者の関係者の殺人事件の犯人と第三話で殺された質屋の裏家業が明らかになるもの。戯作者失踪事件には、関ヶ原で大功をたてるが開府後まもなく謀反の疑いを晴らすため、無役となり、以後幕命で、家由来の骨董集めを自費で命じられいる旗本・本田家の、雛祭りの道具お披露目が重要な舞台となる。このシリーズには関係ないが、上田秀人の「百万石のお留守居役」の本多家を髣髴とさせるのは当方の勘繰りすぎであろうか。
 
さて、今巻から登場する武藤多聞、料理の腕もあり、さらには侍なので、三吉よりは荒事の際は役に立つという結構便利なキャラクター。以後どんな役回りをするのか、ちょっと楽しみでありますね

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