おきゃんで美人の、武家出身の芸娘の運命や、如何に — 和田はつ子「料理人季蔵捕物控 20 おやこ豆」(時代小説文庫)

この巻を彩る新しい登場人物は、「さと香」という芸娘。二十歳前後ではあるが
 
白粉で塗り込められているせいで、顔こそ白かったが、弾むように若々しいだけではなく、きりっとひきしまった目元、口元に、妖艶さに同居した理知の輝きが見てとれた。
 
といった様子で、市中の浪人の娘らしいのだが、筆者の「好意的な視点」が感じられる、と思っていたら最後のほうで、どんでん返しをくらうので要注意。
 
収録は
 
第一話 五月菓子
第二話 おやこ豆
第三話 夏うどん
第四話 生き身鯖
 
となっていて、第一話は、大伝馬町の呉服・太物問屋の京極屋の幼い跡取り息子・弥太郎が、今は妾となっている元乳母「おいと」の差し入れた柏餅で毒殺されるという事件。事件の陰には、「おいと」が身籠もっている上に、弥太郎が、おいとになついていることにくすぶった不満を抱いている、京極屋のお内儀・お加代の姿がちらちらする。事件の真相に、我が子の愛情を独占したい母親の姿が登場するところと、アレルギーをかけたところが今風であるか。
 
第二話では、「さと香」が塩梅屋の艶やかな新客として存在感を増してくる。「さと香」は、浪人ではあるが寺子屋をしていた父に文の才能を期待されながら、芸娘になったことで感動されている身。ただ、心底憎み合っているわけではない二人の仲をとりもとうする季蔵とおき玖の考案するのが、空豆の生姜和え、空豆の葛ひき椀、空豆と小エビの落とし揚げ、といった「空豆」づくしの弁当、といったところが出だし。そして「さと香」のことに一所懸命になる季蔵を見て、季瑠璃の仲は諦めている「おき玖」の心中は穏やかでない、というところが隠し味。
事件は、御書院番小笠原家の家臣が、酔って倒れ、石に頭をぶつけて死んでいるのが発見されうのだが、小笠原家は犯人探しを執拗に言いたててくる、というものなのだが、真相は第三話に続く。
 
第三話は、第二話の小笠原家の家臣の頓死の顛末。この家臣、弱い者を脅しては金をせびる。美人の町娘を見つけてはちょっかいを出す、という鼻つまみ者。あちこちに敵はいるよな、と言っているところで、犯人として捕まったのは、「さと香」の実の父親、という展開。「さと香」の父親の、謹厳実直な武家らしさが見える話。
 
第四話では、武藤多聞と並んで、この話の主要な脇役になるんだろうな、と期待していた「さと香」にとんでもない災厄がふりかかる。やっぱり、この筆者は、美人の若い娘には厳しいな。
「さと香」はおきゃんな美人であるとともに、幼なじみが彼女におんぶにだっこという典型的なダメンズ・ウォーカーで、「ウォーカー」部分が何を意味するかは本書でお確かめあれ。最終的には、季蔵のひさびさの裏の働きが出るのだが、第三話で殺された侍の隠された悪事や、以前、季蔵たちが手こずった、江戸の裏家業を仕切る「虎翁」の残党も出てきて、それなりに大きな悪事退治になる。話の途中で、烏谷の想い人である「お涼」さんの格好良いエピソードが紹介されるが、この辺は次巻の「蓮美人」のところでも関係してくるのでご注意を。
 
さて、ひさびさに「美形」が登場して、これから派手になるよね、と期待をしていたら、作者に見事に裏をかかれました。若い美人に浮かれて、ふあふわするな、との戒めでありましょうか。
 

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