東京育ちの現代娘、「江戸」で名探偵になる — 山本功次「大江戸科学捜査 八丁堀のおゆう」(宝島社)

タイムスリップもののミステリーは柴田よしきさんの「小袖日記」などいくつかあるのだが、大抵は主人公が何かの天災に巻き込まれて別の時代に飛ばされて、とか、その時代の人物の精神と混じり込んでしまって、といった設定が多い。ところが、本作は主人公が現代と江戸時代を自由に行き来して、江戸時代に起きた事件を解決をするという、ちょっとお気楽というか便利な設定である。
構成は
第一章 神田佐久間町の殺人
第二章 小石川の悲劇
第三章 本所林町の幽霊
第四章 深川蛤町の対決
第五章 八丁堀の女
となっていて、主人公の「おゆう(現代名:関口優佳)」は、元OLで、祖母から東京の(作中で優佳が地下鉄の馬喰横町駅から阿佐ヶ谷の向うシーンがあるので、おそらくは)日本橋にある一軒家を遺産相続する。ところが、なんとこの家、押入れを通じて、江戸時代とつながっていることが判明。現代と江戸時代の二拠点生活を始めた彼女は、現代の知識や道具を使って、江戸時代の人々のよろず困りごとを解決していくうちに、町奉行所の同心・鵜飼伝三郎たちと知り合いになり、江戸のその時を揺り動かす大事件に巻き込まれていく、といった展開。
巻き込まれる事件は、薬種問屋・藤屋のドラ息子が殺される事件に始まり、偽薬の流通、薬を検査する和藥種改会所の創設を巡る利権争い、アヘンの抜け荷と、あれよあれよという間に事件が大きくなっていく。とりわけ、おゆうが訪れる時代は、将軍家斉の治世で、寛政の改革失敗後、田沼意次の時を上回る賄賂政治の時代と言われた水野忠成が老中首座の時代なので、まあ、時代小説的には悪人には事欠かない面白い絶好の時代である。
その事件の解決に、「おゆう」こと優佳は、警察以上の分析能力を誇る知り合いのラボを使って、指紋、薬の成分分析、血液分析などなど捜査に必要なデータをいわばカンニングして捜査協力するわけでが、その分析結果をありのままに、江戸の同心や岡っ引きたちに伝えられないのが苦しいところ。
結局は、英語教育を受けている現代人の「関口優佳」の知識によって、権門(水野老中)の虎の威を借りて、アヘンでボロ儲けを企む、薬種商や水野老中の家臣たちをお縄にできました〜、といったところなんであるが、善人と見えた藤屋の隠された一面とか、鵜飼伝三郎の正体とかが最後の方で、手品の種明かしのようにバラバラと開陳されるので、ぜひ最後まで気を許さないでお読みあれ。途中、鵜飼伝三郎との色模様もあって、捕物だけではない楽しみもありますよ。

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