御落胤騒動ってのは、いつの時代も変わらぬ騒動を引き起こすな — 山本功次「大江戸科学捜査 八丁掘のおゆう 両国橋の御落胤」(宝島社)

現代と江戸時代を往復して江戸の市中の謎を解く「おゆう」こと現代名・関口優佳の活躍を描くシリーズの第二作。
構成は
第一章 牛込からの手紙
第二章 備中から来た男
第三章 四谷の地蔵菩薩
第四章 押上の茶会
となっていて、今回、「おゆう」が扱う事件は両国の小間物問屋・大津屋にに突如投げ込まれた、「若旦那は生まれた時に入れ替わった別の家の子供」という、なにやら昨今、実話でとりあげられていたような話。
ところが、その文の差出人の産婆は行方不明にとなっていて。事の真相は闇の中。
さて、というところで、産婆の家で、八丁堀の同心・鵜飼伝三郎に出くわす。彼もも同じ産婆を探していて、彼の追う事件は、時の老中が町奉行に命じた備中の大名家の御落胤の噂話の真相究明。おゆうが請け負った大津屋の事件は、この御落胤の話とすりあってくるのだが・・、といった展開である。
今回は「御落胤騒動」とあって、その大名家(備中矢懸藩)を二分する対立に巻き込まれたりするのだが、もうひとつの興味は、極秘の捜査とあって奉行所や役宅が使えず、おゆうの家に入り浸りになる鵜飼伝三郎との恋模様といったところで、硬軟取り混ぜて筋は展開する。
で、今回の掟破りは、前巻で指紋分析やらの現代の科学捜査の技術を使ったものよりさらにバージョンアップして、現代の備中(高梁市っぽいな)に出向いての証拠集めと偽造というもの。「捕物帳」という性格なので許されるが、「ミステリー」なんて名乗っていたら、エライ目にあいますな、これは。
まあ、ちょっとネタバレすると、御落胤騒動ってのは、吉宗の御落胤・天一坊の例に漏れず、うまくいかないってのが世の常であるのだが、御落胤をめぐって、悪知恵と猿知恵の限りをつくして大乱闘と暗闘がくりひろげられる、っていうのが楽しいところで、この作品もそこのところはきちんとおさえてあるんでご安心あれ。
まあ、捕物帳の魅力の一つは、歴史的事実はちょっとおいといて、異世界で起きる出来事をうひゃうひゃと愉しむところでもある。難しく考えず、作者の掌の上で楽しみませんか。

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