ビジネス現場で重要な「根幹的技法」とはなにか — 田坂広志「仕事の技法」(講談社現代新書)

本書は
 
実は「仕事の技法:には、企画であれ、開発、生産、サービス、総務、経理、人事、情報、広報、いかなる仕事であても求められる、「根幹的技法」と呼ぶべきものがある。・・・それは「対話の技法」である。
 
といった書き出しから、想像すると、仕事をテキパキと効率よくこなしていいくテクニックや方法論が満載、と思ってしまうのだが、けしてそうではない。むしろ、仕事を行う上での「根本的な思想」に関する「仕事の思想」の本と思って読んだほうがいい。
 
構成は
 
序話 「仕事の技法」の最も根幹的な技法とは何か?
第一話 すべての分野で役に立つ「仕事の技法」は「深層対話の技法」
第二話 「仕事のできる人」は必ず身につけている「相手の心を感じ取る技法」
第三話 「心配り」や「気配り」の本質は「言葉以外のメッセージ」を感じ取る力
第四話 相手の「真意」や「本音」を感じ取る「深層対話力」
第五話 「言葉意外のメッセージ」こそが相手に伝わってしまう
第六話 本を読んだだけでは掴めない「プロフェッショナルの技法」
第七話 「深層対話の技法」が身につく本の読み方
第八話 多忙な日々の中でも深層対話力を身につける「反省の習慣」
第九話 商談や交渉、会議や会合の直後に必ず行うべき「追体験」
第一◯話 「追体験」において求められる「視点の転換」
第一一話 相手の表情、仕草、動作から感じ取る「言葉以外のメッセージ」
第一二話 優れたプロフェッショナルから学ぶべき「深層対話の視点」
第一三話 「一人での反省」がしばしば陥る「解釈の誤り」
第一四話 究極の「深層対話力」を身につける「深夜の反省日記」
第一五話 「深夜の反省日記」において見つめるべきは「自分の心の動き」
第一六話 相手から必ず見抜かれる心の中の「操作主義」
第一七話 「直後の反省会」を効果的にする「場面想定」の技法
第一八話 「場面想定」の習慣で身につく最も実践的な「戦略思考」
第一九話 「無意識に相手に伝えているメッセージ」に気がつく高度な「深層対話の技法」
第二◯話 最も成熟した「深層対話力」は「聞き届け」の技法から
第二一話 すべての仕事において活用すべき「深層対話力」
第二二話 「心理学」を学ぶだけでは決して身につかない「深層対話の技法」
第二三話 「深層対話力」とは着分けて切れ味の良い「諸刃の剣」
 
となっていて、かなり詳細な目次となっていて、本書のレビューの場合、これに加えて、抜き書きをすると筆者の主張を無造作に引用してしまうことになるので、今回は自戒。
 
当方的に重要なポイントは、まずは、交渉ごとを含めた仕事の現場では
 
・「言葉のメッセージ」だけでなく、その背後、あるいは周辺の「言葉以外のメッセージ」が重要
・この「言葉以外のメッセージ」を汲みとる力(深層対話力)を身につけるには、経験を積み重ねる以外ない
 
といったところで、そこは「勉強のできる人間は「知識を学んだだけで、「智慧」をつかんだと思いこむ」落とし穴に落ち込むことが多い、というところで明らかなように、知識偏重、理屈偏重のビジネスや自己啓発へのアンチテーゼでもある。
 
そして、それは流行の「相手を思うままに操る・・」あるいは「顧客を虜にする・・」といった表題に象徴される「操作主義的な技術」を教えるマニュアル本・啓発本への批判でもあって、それを希求する我々の心にある「手っ取り早くなんとかしたい」という「楽な道の希求」と、相手への配慮を欠いた、自分のほうが優れていると思い上がる「小さなエゴ」の戒めでもあって、ここらの主張は結構、耳に痛い。
 
そうしたことを踏まえ、筆者が身につけるべきという「戦略思考」は「その先」を読み、どのような場面が展開するかを考え、その場面にどう対応していくかを瞬時に考える」もので、その基礎となる「深層対話力」「深層対話の技法」は、「相手の心」がわかり、相手の立場や心境を深く理解するものであるらしい。
この力を磨くため、例えば「直後の反省会」であるとか、「深夜の反省日記」などいくつかの手法は提案されるのだが、肝は「実践重視」「経験重視」ということには間違いないようだ。
 
ビジネスの現場力を磨く上で重要なのは、知識や理屈を追い求めるのではなく、自らの経験をしっかりと振り返りながら進む手法であるようですね。
 

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