「定年」を迎える年齢になったが、さて・・・ — 郡山史郎「定年前後の「やってはいけない」ー人生100年時代の生き方、働き方」(青春新書)

最近、「定年本」が密かなブームになっているらしい。団塊の世代が退職を迎えた数年前にこうしたブームがあったように記憶しているのだが、人口集積的には、団塊世代ほどの圧力をもっていない、昭和30年〜35年ぐらいの年代が定年や役職定年を迎えるこの頃にブームとなっているのは、おそらくは年金の先行き不安があるのと、「働き方改革」とやらで突然「人生100年時代」とかが言われ始め、中高年の不安が増していることの反映でもあろう。
 
本書の構成は
 
第1章 「働かない老後」から「働く老後」
第2章 定年前後のやってはいけない
第3章 いますぐはじめる暮らしの見直し方
第4章 人生100年時代を生き残るヒント
 
となっているのだが、読んだ印象的には「男性向け」の中規模以上の企業に勤務していた人向けの、定年本の印象。ということは、この本の対象範囲はかなり広いといえるだろう。
 
ただ、気をつけておきたいのは、
 
定年後の再就職は、それまでの地位や収入、仕事の内容ときっぱりと決別しなければよい結果は生まれないということだ。  定年を迎えたら、もう一度新入社員になったつもりで、待遇にあまりこだわらず、何でもチャレンジしてみるのがいい
 
といったあたりや
 
起業だけは「やってはいけない」  
  
そもそも、何度失敗を経験しようと立ち直り、新たに事業を起こして軌道に乗せるには、それなりに時間もかかる。そんな時間的余裕は、第2ハーフには残されていない
 
といったところで顕著なように、景気よく「独立開業」を煽る政府広報のような本ではなく、どちらかといえば、保守的な「定年本」である。
 
なので、
 
「私は〝第三新卒〟だからゼロから挑戦する」くらいの気持ちで新しい勤め先を探すのが、定年後の職探しでは適切な態度だといえる
 
というところが基本的な信条であるようだ。
 
とはいっても、83歳になってもいまだに現役のビジネスマンの筆者であるから
 
45 歳を過ぎたらどんな学びもなかなか身につかないのだから、高齢者はあえて学び直す必要などない。新しいことは学べなくても、社会の大きな部分の動きはあまり変化しないから、高齢者はいままでの知識と経験で十分に仕事をしていける。
 
といったあたりは開き直り的な潔さすら感じる。
 
まあ、なんにせよ
「定年」とは社会がつくった便宜上の区切りである。端的には、雇用者側が、その会社で働ける年限を示した規定に過ぎない。要するに、会社の都合にもとづいてつくられた制度ということだ。「定年」の名のもとに会社を追い出された人が、その後どうなるかということは、会社も、社会も、(年金という制度上の手当を除けば)基本的に配慮しない。
 
ものであることは間違いなく、本書の主張の根幹は
 
私はこの本で、「一生働く」ことを推奨してきた。さらにいえば、高齢者が幸福に暮らすために最も大切な要件は、「働く」こと以外に存在しないとさえ思っている
 
とのこと。若い世代が組織や会社に属して働くことへの根源的な問いかけを始めている今にあって、中高年世代も安閑としているときではない。とりわけ、この後には、「定年」の持つ制度的な恩恵をうけることのない「ロスジェネ世代」が続く。「働くこと」そのものをもう一度考えてみますかね。





コメント

タイトルとURLをコピーしました