軽井沢の霧の中での、母娘の対決の行方 — 田中芳樹・垣野内成美「薬師寺涼子の怪奇事件簿 霧の訪問者」(アフタヌーンKC)

今回の舞台は、久々に国内で、「軽井沢」という、けっこうベタな設定である。
もちろん、お金持ちのお嬢様である「お涼サマ」は昔からの避暑地「奥軽井沢」に別荘をお持ちで・・・、というところなのだが、そこに、アメリカの食品と農業の世界最大級のグループ企業のUFAのオーナー一族であるロートリッジ家の女性当主マイラとその娘アーテミシアがやってきて、日本の企業との提携協定のパーティーを開催。事件はそのパーティーでの出来事が発端。
話の冒頭のほうで、お涼さまの忠実な部下である泉田刑事が、娘のアーテミシアの車と接触事故を起こして彼女に保護されたり、といったハプニングはあるのだが、これは単なる呼び水。アーテミシアの世間知らずのお嬢様ぶりを紹介する設えであろう。
事件の中心は、アーテミシアのパーティー会場での「焼身自殺」。何不自由ない金持ちの娘が、なぜ日本のこんなところで、といったところなのだが、事件を解くカギは、彼女が自殺するときの母親マイラの「お前の体は私のものですよ」という発言と、娘の「もう おしまい。細胞の一欠片だってあなたには遺してやらない」という言葉で象徴される、自殺の陰に隠された母娘の秘密をあきらかにしていく筋立てである。
謎を追っていく途中で、母親マイラのメシア願望や不死願望であるとか、アーテミシアが父親の存在しない人間であるとかのTipsが散らされていくのだが、今回はの事件の謎は二重三重の扉が用意されているので、「アーミテシアがクローン人間では」などといった情報で安心しないこと。最後の最後まで「どんでん返し」があるので、お楽しみに。
さて、今回の「お涼さま」の名言は、アーテミシアの恋人の弟を救出したところでの
「アタシはドラ娘に同情なんかしない。
(中略)
自力で逃げられなくても誰かに助けてほしいのなら・・求める・・ってことを「やる」
(中略)
目的は勝つこと
勝つために戦う
戦力をたくわえ、時機を待ち、戦略を立て、戦術を練る・
泣くヒマがあったら計略をめぐらせろ
自己憐憫にひたる時間があるなら敵の弱点をさぐれ!
母親や主治医におぞましい秘密があるならそれをネタに脅迫。
そうやって、自分の自由と尊厳を守る!
 でしょ」
といったところ。
あいかわらずの高ピーの発言なのだが、弱気になっているときには妙に元気づけられますな。

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