天下の情勢は急変、越後の龍・謙信起つ — 梶川卓郎「信長のシェフ 20」(芳文社)

タイムスリップものは、主人公が活躍して、その時代で重きをなしていくにつれて、タイムパラドクスをどう取り扱うか、といったことが重要になってきて、主人公の活躍も歴史に組み込まれたものとしていくか、あるいは全くの架空史にしていくかの瀬戸際に、そろそろ、このシリーズもさしかかったかな、という感じがする。
 
第20巻の収録は
 
第166話 変えうる力
第167話 海を統べるもの
第168話 心を救うもの
第169話 信長の向かう先
第170話 動き出した軍神
第171話 秘密の贈り物
第172話 七尾城揺れる
第173話 謙信という男
 
となっていて、時代背景的には、天王寺砦の戦の後、本願寺勢が籠城に入り、織田軍が封鎖を続ける中、顕如から救援を依頼された毛利軍が兵糧と軍備の補給を試みるところから、上杉・武田・北条の和睦が成り、上杉謙信が上洛を始めるところまでで、多彩な政治的な出来事が凝縮されているのが本巻。
 
出来事があれこれ起こる時の登場人物の動きというのは、キャラが定まってきたシリーズもの、特に歴史ものでは、急にわさわさと動いて面白いもので、毛利勢、織田勢、本願寺勢、上杉勢と、占めるページ数は限られるものの、それぞれに陣営の特徴が感じられる。
 
特に今巻で注目したい人物は、まずは、織田の九鬼水軍の長・九鬼嘉隆に対する毛利軍の村上水軍の長・村上元吉で、本願寺へ物資補給で九鬼水軍に対峙して、
 
我ら海賊衆は古来より海を住処とする者・・・。
あくまで陸の大名達に「協力」はするが陸の組織に取り込まれはしない・
(略)
陸に焦がれた海の兵など怖くはない
 
というあたりに、藤原純友以来綿々と流れる、中央の権力から独立してあろうとする、辺境にある者の心意気を感じるし、
もうひとりは、毛利元輝で、村上元吉に「わしが天下人の器だと思うか?」と問うて
 
「織田は間違いなくその中の一人じゃ。
そして、わしは違う、わしには出来ぬ。
この戦国の世、その才覚だけが全てではない。
わしでしかやれぬことがある
相手は天下人になり得る男じゃ。同格の男に戦ってもらうのがよかろうよ」
 
といったあたりに、天下統一争いから一歩引いていたせいか、歴史小説では、影が薄い人物であるが、天下人候補たちに横から影響を与える、「脇役の底力」を感じますな。
 
さらには史実とは違うのだろうが、織田信長の長男・信忠と武田勝家の妹・松姫
との「秘めたる恋」の贈り物に、「ケン」が協力するあたりは戦乱の中の一服の清涼剤なのだが、すでに時代改変に関わってるよね、と思わないでもない。
 
さて、本巻は、「ケン」が、織田勢に攻めかかる上杉謙信への秘策を、織田信長から託されたあたりで、次巻へと続くのである。

【関連記事】

「信長のシェフ1〜3」

梶川卓郎/西村ミツル「信長のシェフ 4」(芳文社)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 5」(芳文社コミックス)

梶川卓郎・西村ミツル「信長のシェフ 6」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 7」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 8」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 9」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 10」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 11」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 12」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 13」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 14」(芳文社コミックス)

西村ミツル・梶川卓郎「信長のシェフ 15」(芳文社コミックス)

織田の家督相続の宴はクーデターの危機をはらんでいた ー 梶川拓郎「信長のシェフ 16」

本願寺挙兵ス — 梶川卓郎「信長のシェフ 17」(芳文社)

「陰謀」は敗れるからこそ面白い — 梶川卓郎「信長のシェフ 18」(芳文社)

「瑤子」と「松田」、それぞれの旅立ち — 梶川卓郎「信長のシェフ 19」(芳文社)

織田と上杉の激突、いよいよ決戦前夜 — 梶川卓郎「信長のシェフ 21」(芳文社)

旧勢力は去れ、と信長は言った ー 「信長のシェフ 22」

弾正爆死から中国攻めへ。そして、ケンが「本能寺」を防ぐ鍵は? ー 梶川卓郎「信長のシェフ 23」

信長の世界雄飛の志は、水軍の若き頭領に届くか? ー 西村卓郎「信長のシェフ 24」

コメント

タイトルとURLをコピーしました