織田と上杉の激突、いよいよ決戦前夜 — 梶川卓郎「信長のシェフ 21」(芳文社)

歴史の中には闇の中に埋もれたままで、後世には残っていないことはたくさんあるはずで、そのあたりに妄想を巡らすのも、後世の歴史愛好家の特権であろう。信長のシェフ21巻は、そういった風情で、戦国時代の歴史愛好家の「ひょっとすると」を刺激する筋立て。
 
収録は
 
第174話 孤独への救い
第175話 密談への道
第176話 関所を超えろ
第177話 苦渋の謀り
第178話 武田の利
第179話 天が与えしもの
第180話 能登への道
第181話 謙信に届け
 
となっていて、時代背景的には、織田勢と上杉勢とが激突した「手取川の戦い」の前夜。
話の筋的には、主人公の「ケン」が、信長から上杉謙信との対面での面会のセットを命じられて、武田勝家を通じて、謙信のもとへ出向く。さて、首尾よく、その調整が整うか・・・、といったところ。
 
史実的には、信長と謙信が密かに会った、なんて記録はおろか、この手取川の戦に信長が出陣したなんてことも残っていいないはずなのだが、手取川の戦の後に「上杉に遭うては織田も手取川 はねる謙信逃げるとぶ長(信長)」といった落首が残されているらしいので、このあたりに妄想をたくましくしても面白い。
 
今回注目する人物模様は、信長の密命を受けてはっきりとしたものいいができず陣中を不安にさせている柴田勝家と、勝家を焚き付けて織田軍から離脱する羽柴秀吉。本巻では、秀吉は、情報途絶を嫌って自ら情報収集の道を探ることとなっているのだが、本当のところは、二人の反りが合わなかったという通説が正解であろう。ただ、この戦の終了後、本来なら謀反ととられてもよい秀吉の行動を信長は許しているので、なにかしら隠された事実があるのかしれない、と妄想させるに十分ではある。
 
もうひとつは、武田勝頼の人物の大きさ。大概の歴史小説では、あまり評判のよくない勝頼なのであるが、本シリーズでは、能力も高く、情け深い、といった風にかなり好意的に描かれている。
 
さて、話としては、上杉謙信の本隊に潜入を果たし、しかも、謙信へ信長の意思に伝えることができた。さて、歴史の陰に埋もれた「手取川の戦・秘話」的な信長・謙信会合はありうるのか、といったところで次巻へ続くんである。

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