一豊の妻・千枝の内助の功は「馬」だけではない — 鯨統一郎「山内一豊の妻の推理帖」(光文社文庫)

歴史ミステリーは、歴史的な有名人物がその才能を活かして市井の事件をバサバサと解決していくパターンと、現在には伝わっていない、歴史的事実の隠された姿を暴き出す、といった二つのパターンがあっるのだが、本作はその中間あたり。
内助の功で有名な、山内一豊の妻・千枝が、夫の周辺で起きる謎や、夫に降りかかる難題を解決していくといった筋立て。
 
 
収録は
 
第一話 真(まこと)に至る知恵
第二話 暗闇の中の知恵
第三話 隠され知恵
第四話 小さな筺の知恵
第五話 夢の中の知恵
第六話 一夜限りの知恵
第七話 遠い日の知恵
 
となっていて、時代背景的には、第一話が信長が浅井・朝倉の軍と戦った姉川の戦の二年後に始まり、最終話が一豊が関ヶ原の戦後に土佐に封じられるところまでで、一豊と千枝が出会って夫婦になり、信長、秀吉、家康といった戦国の英雄たちの間をうまく立ち回り、戦乱の数々をくぐり抜けて、一国の主となるまでで、それなりに立身出世の、成り上がり物語が味わえる仕掛けにもなっている。もちろん、その出世の陰には、千枝の推理働きがあるわけで、一豊の出世は彼女の内助の功の賜物という定説をきちんと守っている。
 
推理の方法は、夫・一豊から状況を聞き出して推理を行う、典型的なアームチェア・ディクティティブなのだが、謎を解くのが、「閨」内での「あの時」というのが、作者のいたずらなところであるが、千枝も年齢を重ねて、そういったことが少なくなるに連れ、推理の冴えも減っていく、というのが、なんとも生々しい。
 
このほかに石川五右衛門の誕生秘話とか、秀吉が本能寺の変による信長の死の情報を、なぜ、素早く手に入れたのか、といったエピソードも交えてあり、なかなかの盛りだくさんである。
 
さて、こうした歴史ミステリーは、歴史的事実の本当の姿を暴く、といった類の生真面目なものもあるのだが、本書はそういうところとは一線を画したソフトタッチのもの、お気楽に楽しむのがよろしいかと。
 

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