あなたの職場も「残念な職場」かもしれない。さて、どう「脱却」する? — 河合薫「残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実」(PHP新書)

ビジネスパーソンで、企業や官庁での勤務経験のある方には、大なり小なり「職場」というところは「残念」で「面倒なこと」の宝庫であることは衆知のことであると思うのだが、そういう「残念な職場」について取り上げて、改善策、脱却策を探っているのが本書。
 
構成は
 
第1章 無責任な人ほど出世する職場
第2章 現場一流、経営三流の職場
第3章 「女はめんどくさい」と思われている職場
第4章 残業のリスクを知らない職場
第5章 残念な職場を変えるには
 
となっているのだが、それぞれの職場についての論評が、皮肉のスパイスがたっぷり効いていて刺激的である。例えば「無責任な人ほど出世する職場」では、お決まりの「ピーターの法則」はもちろん披瀝されるのだが、そのほかに
 
米国ではその責任感を個人のパーソナリティ特性と明確に位置づけ、「他責型」と「無責型」に分けるのが一般的です。
具体的には、
●他責型は「人を責める」「人のせいにする」タイプ 
●無責型は「自分の関わりを否定する」タイプ  を示します。
米国企業のトップの7割はこのどちらかに属するとされ、・・・
無責任な人たちはたびたび をつきます。しかしながら彼ら彼女らには、「 をついている」という罪悪感がいっさいありません。・・・実際には、嘘を貫き通すことができると、次第に”チーターズハイ”と呼ばれる高揚感に満たされ、どんどん自分が正しいと思い混みようになっていくのです
 
といったことや、「現場一流、経営三流の職場」の
 
「経営者は孤独」とよく言いますが、物理的に孤立していることが問題なのです。孤立してれば孤独だろうし、「孤立してちゃ、経営はできない」のです。  
 
「組織が厳格すぎたり、階層構造的になると、当事者たちは緊急情報に上手く対処できない。NASAのスペースシャトルの失敗はその典型的ケースだ。NASAでは直属の上司・部下の関係を超えて、情報が行き交うことは絶対になかった。すべての管理職は、直属の部下から上がってくる情報だけに頼っていた。  経営幹部は通常の報告を監督する以上の仕事をしなければならない。自ら探し求めなければ手に入らない情報を、手に入れなければならない
 
といったところに、思わず頷いてしまう向きも多いのではないだろうか。
 
当方が思うに、日本企業の隆盛の原因が、長期雇用や、年功序列の人事体系にあったかどうかは議論があるだろうが、少なくとも、それらを批判して颯爽と登場した成果主義やプロフェッショナル人事が、前評判ほどうまくいってないことは間違いない。そのあたりは、特定の組織に劇的に効くものと、多くの組織に汎用的に効くこととがごっちゃに議論されることが問題で、自分の組織が欧米的な文化に馴染む組織とそうでない組織のどちらに属するのかを、きちんと分析することがまず先決のように思えるのである。
 
さらには「「女はめんどくさい」と思われている職場」での
 
皮肉にも〝ファーストシフト(第1の勤務)〟=職場が働きやすい場であればあるほど、〝セカンドシフト(第2の勤務)〟=家庭より職場に魅了され、仕事に没頭することで自分の存在意義を感じていたのです。 「家庭がいちばん」「家族との時間を大切にしたい」と思いながらも、家庭にいるときの息苦しさから逃れたくて、仕事に没頭する。「子どもに悪い」「夫に申し訳ない」と思いながらも、仕事を選ぶ。そんな〝もうひとりの自分〟と葛藤する。まさしく「時間の板挟み状態(Time Bind)」です。
 
そして、家庭に置き去りにされた子どもは、母親の注意をひこうとわざと反抗したり、問題を起こす。そんな子どもとの関係を 繕うための〝サードシフト(第3の勤務)〟に、母親たちはさらに疲弊します。
 
といったあたりには、女性登用の掛け声のもと行われる「職場環境改善」の皮肉な側面を垣間見るし、
 
男性たちは自分たちの集団に女性がひとり入ると、自分たちが〝男〟という同質な集団だったことに気づき、その一枚岩を壊したくない、壊されたくないという思いが無意識に働き、「男性性」をまとった発言や行動をとるようになります
 
といったところに、ジェンダー間の越えられない裂け目を感じるのは当方だけではあるまい。
 
さて、こうした「残念な職場」からの脱却法として
 
どんなに「 17 時退社」を掲げても、業務量を減らさないことには、サービス残業や隠れ(隠し)残業が増えるばかりです。そこで彼に「業務量はどうやって減らしたのか?」と質問しました。  すると返ってきたのはまさしく「成功の法則」です。 「みんなで考えたんです。よく話しましたね。部長も、課長も、リーダーも、チームも、もちろん私も、『こうしたらどうか? これは○○でやればいいんじゃないか?』と意見を出し合い、上手くいくと『早く帰ったら楽だった』『育児もできる』と報告しあったり。上手く仕事を減らせない人には『こうやったらどうだ』とアドバイスしたり。いい方に回転しだしたら、どんどん加速していきました。
 
心理的安全性。互いに敬意を払い、意見を出し合い、「ああ、ここは大丈夫だ。信頼できる場所」という職場にしていくことで、生産性は上がり、 17 時退社が当たり前になったのです。
 
といったところが特効薬的に注目されるあたりは、ちょっと安易かな、と思ってしまうのだが、当方が重要と思うのは、「疲労」をとること、それは従業員の「疲労」であるし、組織の「疲労」でもある。双方の「疲労回復」を図るのが「残念な職場」からの脱却法である、というあたりが筆者の主張ではなかろうか。
 

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